会長コラム“展望”

人的資源の最大化

2012/03/01

組織

企業にとって人材の質はバランスシートには載らないが最大の資産であり、場合によっては負債である。

企業はバランスシートの 中の純資産の項目にある数字を増やすことによって、安定的にその存続を社会から許される存在である。だから、これを生みだすためのバランスシートに載っていない資産である人材の質を高め続けることがことさら重要になるのだ。ところが中小零細企業の場合は、人材は専らトップがひとりであり、これを自分以外の社員に求めているというケースは少ない。


だがトップというひとりの人的資源から生み出される価値にはおのずと限りがあるから、企業は適当な段階に来ると、人的資源の拡大をしていかなくては、その成長が頭打ちになってしまう。このことを悟ったトップは、最も重要な仕事がこれまでの商品・サービスづくりや顧客 に対するセールス活動から、社内の人的資源の価値を極大化させることであることを知るわけである。

社内の人的資源の価値を高めることには2 つの方法論がある。1つ目は、すでに社内に存在する人的資源の価値を継続的に高めること、もう1つは価値の高い、あるいはその可能性のある人的資源を外部 から取り入れることである。実際にはその両方の活動を通してトップは企業価値を高める活動を行っている。


前者、つまり現存する人的資源の価値を高めるという点であるが、これは地味な活動である上に、すぐに結果が目に見えてくるわけではない。そして本来はその意義を社員に対して説明し、しっか り認識させた上で行わなくてはならないのだろうが、トップの説明不足であったり、このことに対する社員の理解度の不足であったり、そもそもモノを見る視点が違うのだから事はそう単純には進まない。


そんな中でトップの意識だけ急いてみても、社員の側からすれば、「余計な仕事が増えて面倒だ」というふうに映ってしまう、といったことが往々にして起こる。


となると、このような方法がすぐに効果が上がらないとトップは考え、価値の高い人材を外部から 取り入れた方が話は早いという気持ちになってしまう。しかし、これだって簡単な話ではない。


まずは、そもそも自社がどのような人材価値を求めているのかについて明確に理解していないケースが多く、結果として組織にミスマッチを起こしてしまう。ひと昔前の巨人軍が陥ったように、豊富な経営資源(カネ)にモノ を言わせて、価値の高い人材(4番バッター)をたくさん採用してみたからといって、優勝できるわけではないのだ。


さらに、外部からの人材の価値だって実際には社内で働いてみるまで分からない。別の組織の4番バッターが、自社の4番バッターになるとは必ずしも言えないのである。そして外部からの人材の取り入 れが、組織のバランスを乱す場合だってある。


一方、外部からの人材の取り入れを末端層に限って行えば、組織のバランスを損なう可能性は低いわけだから、多くの大企業は新卒採用というかたちで人材の取り入れを行う。そして、新卒採用による人材の受け入れを定期的に大量に行う大企業は、一定の確率でその中にレベルの高い人的資源が混じっていることを知っているから、そのような方法が最善なのである。


ところが多くの中小零細企業は、大量に人材を取り入れて、適当な確率で有益な人材を発掘する、などという悠長な作戦は取れない。そこで、すでに実績の出ている人材を採ろうとする。 しかしそのような人材は、(すでに別の場所での実績があり)組織の末端で取り入れることは難しいから、組織の中間層かトップ層に入ってくる。これが既存の 組織とのバランスを乱すということにつながるわけだ。


このように人的資源の最大化は企業にとって、きわめて難解なテーマである。それでもトップはこの課題には取り組み続けなくてはいけない。その重要性はどのような経営環境になっても、いささかも変わるものではない。


今月、このようなテーマで書いたのは、理屈ではなく、私自身も零細企業のトップとしてそのような経営課題に直面しているからである。面倒でたいへん、商品づくりや顧客へのセールスの方が気楽で良いが、これこそがトップの最重要課題であることだととらえ、考え、そして行動すべきなのだろう、そう自分に言い聞かせている。


株式会社鎌倉新書
代表取締役社長 清水祐孝