会長コラム“展望”

あけましておめでとうございます

2012/01/01

個人的価値観


先般発表された2011年ヒット商品番付によると、東西の横綱はアップルと節電商品となっていた。前者はその創業経営者が急逝したこともあってその関心が高まったこともあるが、春に発売されたiPad2や先ごろ発売されたiPhone4Sは実際に世界中で売れに売れた。

確かに、それらのプロダクトの先進性やデザインの完成度の高さは他の追随を許さないものである。しかし、大切なことはそのようなプロダクト自体にあるというよりも、これらを使って人々の関心やニーズを満たしたということにある。例えば、彼らはiTunesという音楽配信ソフトを使って、音楽を手軽にかつ安価 (かどうかは意見が分かれるが)に聞くことができる仕組みを提供した。結果として、音楽というマーケットの流通構造を180度変えたのである。

さらには、同じプラットフォームの上に、人々のニーズ(例えばゲームやビジネスの問題解決に役立つものなど)を満たす、さまざまなアプリケーションを提供できる仕組みを整えた。このようにアップルは、既存のマーケットに劇的な変化を生み出したのである。

も う少し突き詰めると、アップルがこのような変化を起こすことができたのは、通信環境が劇的に変化したこと─つまり、インターネット環境の普及、無線通信インフラの整備、通信(パケット)料の無制限化など─にその要因が求められ、こうした社会インフラの変化がアップルを台頭させる礎となったのである。

後者である節電商品のニーズが高まったのは、とりもなおさず3月に起こった東日本大震災の影響である。太平洋に面した東京電力福島第一原子力発電所が被災 し、原子力による電力供給が大幅に減ったために節電が叫ばれるようになり、結果として節電商品がヒット商品番付のトップにランクされることとなったのだ。つまりこれは、大規模な自然災害がマーケットに大きな変化をもらたしたということだ。


 すべては「変化」から生じる。

今日、「直葬」「家族葬」などといわれるように、日本人の葬儀が小規模化したのは、社会構造や産業構造の変化が生み出したものである。サービス業中心の社会となり、人びとが一所で定住することが減った結果、地域コミュニティーが形骸化、あるいは崩壊していった。そのことが、葬儀を地域のイベントから家族のイベントに変えた。そして家族の単位は小さく核家族や単身家族が中心となり、さらには長寿化が葬儀の小規模化や簡素化に拍車をかけた。

仏壇専門店は徐々にではあるが消えていく運命にある。仏壇が消えていくのではなく、仏壇専門店が消えていくのである。なぜなら、上述したような社会の構造が人々とお寺、あるいは日本の仏教との関係を形骸化させているからである。お寺と付き合いのなくなった家族にも仏様がいれば、手を合わせる場としての仏壇は必要である。しかし、お寺との付き合いがないのなら、仏壇は通販やホームセンターで買ってきて説明書どおりに飾ればいいのである。魂入れは必要ない。仏壇専門 店は仏壇というハードを売っていただけではなく、地域や宗派ごとの仏事のしきたりや、法要についてのアドバイザーとしての役割を持っていたからこそ、専門店が業態として成り立っていたのである。仏事や法要を行わないのであれば、ハードは専門店以外のモノとしての仏壇を扱うところから購入した方が安く買える。さらに、家族の単位が小さくなり、住む場所も小さくなったため仏壇も小さくなっている。宅急便などの物流の発達も、買う場所の制限をなくしているのだ。

社会の構造変化は、もちろんお墓の世界も変える。少子化や単身世帯の増加は、承継者のいない家族を劇的に増やしている。承継者があることが前提の従来のお墓は、このような社会の変化に対応できていない。

これらは、いつも言ってきてることだが、変化があってそれに呼応してビジネス環境が変わる。このような変化は大震災とは異なり突然やってくるものではない。だから、社会の変化にはいつも目を凝らしておくことが肝心だ。

そ して、需要減退による、相対的な供給過多は時間が解決する問題であるから、必ずしも悲観することはない。新たな場に出掛けるか、同じ場所にとどまり、供給 の減少を待つか、それらは経営判断である。大切なことは、どんな変化が身の回りに起こっているか常に考えること、そして、そのことに対応して自らをどう変えるのかである。


本年もお付き合いのほどよろしくお願い申し上げます。


株式会社鎌倉新書

代表取締役社長 清水祐孝