会長コラム“展望”

移民とラグビーワールドカップ

2015/10/29

個人的価値観

ラグビーのワールドカップが開催されている。日本はすでに予選で敗退しているが、強豪の南アフリカに勝利したことで、世界中をあっと驚かせたことは記憶に新しい。さらには、予選で対戦した4チームに対して3勝1敗と好成績を残したことから、国中が大いに盛り上がり、それまではサッカーの陰に隠れていた感のあるラグビーが一気に注目されることになった。

わたしの大学時代ラグビーは結構人気のスポーツで、学内にはスター選手もいた。当時、試合の応援に出かけたこともあるので、興味がないわけでもないのだが、最近ではそれほど人気がなかったせいか、露出も少なく、長い間見たことはなかった。たまたま、南アフリカに勝った試合が再放送されたので、ゆっくり観戦することができたのだが、確かに迫力があって見ていて面白いスポーツである。これだと、4年後に行われる日本大会も大いに盛り上がることだろう。

さて、ラグビーの国際試合には他の競技には見られない制度があるようだ。それは、日本代表選手が、必ずしも日本の国籍を持っているわけではないということ。それも選手のうちの2〜3人ではなく、たくさんいる。ジャージが違うから日本の選手と他国の選手は見分けがつくが、同じジャージだったらどっちがどっちかわからない、そんな感じだ。

調べてみると、①本人が日本生まれ、②両親か祖父母の1人が日本生まれ、③本人が3年以上続けて日本在住、のいずれかを満たしていれば、代表になることができるということらしい。サッカーなどでは多少外人っぽい人が混じっていても、日本の国籍を取得したんだなと理解していたわたしたちにとっては、とても違和感がある光景である。さて、このことをどう理解すればよいのだろう。

日本人は、大雑把にいえば単一民族の国家で、異なる民族が交じり合って暮らすことに慣れていない。民族=国家に近い感じだ。だけど、世界の多くの国はそれとは全く異なる。アメリカはもともと、移民たちの国だから当たり前だが、最近のシリア難民のEU諸国への大量流入なんかも見ていても、異なるバックグラウンドを持つ人々が交じり合って暮らすことは、世界的に見れば当たり前のことなのだなあ、と改めて感じたりする。

ラグビーに話を戻せば、次回の日本大会で日本が世界の上位に食い込むためには、企業がお金を使って世界中からトッププレーヤーをかき集め、3年間国内に放流すれば良いということになる。3年もいれば、日本に愛着が生まれ「日本代表になってもいいや」という人たちが適当な確率で現れるだろう。そして、このプランに賛成する人は、日本国籍を持ってない人は代表になれないという制度を支持する人たちより圧倒的に多いに違いない。純日本人を守り通した結果、予選で大差で負ける、そんな試合は誰も望んでいないのである。

いま、日本は人口減少、高齢化が進展し、今後の経済発展には赤信号がともっている。日本人だけが特別優秀な人間たちで構成されているわけではないだろうから、消費者が減り、生産年齢人口が減る中で経済成長を維持していくことは、常識的に考えれば困難である。そんな中、安倍首相は「経済最優先でGDP600兆円」などとぶち上げているが、果たしてそんなことが可能なのだろうか。経済最優先で考えるなら、ラグビーの日本代表のように国益に叶う人は積極的に受け入れていくべきというのが、リーズナブルな考え方だと思うのだが・・。

グーグルの共同創業者のセルゲイ・ブリンはロシアからの移民で、アメリカに莫大な価値をもたらした。ソフトバンクの孫正義は在日韓国人の子どもで、わが国に莫大な価値をもたらした。北方領土の返還も大切なことなのだろうが、たくさんのロシアの優秀な技術者を大学や研究機関にでも招いて、その人たちに「ずっと日本に住みたい」と思ってもらう方が、経済最優先の視点からは、わが国に富をもたらすのになあ、と思ったりする。

VISIT JAPANキャンペーンが奏功し、たくさんの観光客が日本を訪れているが、今度はラグビー日本代表の活躍の熱が冷めないうちに、BE  JAPANESEキャンペーンでもやったらどうかと思う。ただしその後ろに(If you have special talent.)と付け加える必要はあるだろうが。

株式会社 鎌倉新書

代表取締役社長 清水 祐孝