会長コラム“展望”

地球で最もお客様を大切にする企業

2015/09/30

ビジネス

以前にも書いたことだが、わたしは購入する書籍を大きな書店で立ち読みをして決めている。しかし、そこで購入するのは当座必要な一冊のみ。残りはスマホにメモってアマゾンに注文をしている。それは、書籍をたくさん買うと荷物になるからであり、アマゾンで購入してもデメリットがないからである。この場合のデメリットとは、送料が別途かかるとか、何日も注文した本が届かないといったこと(送料無料は有料で会員になる必要があるのだがヘビーユーザーにとっては高価なものではない)。もし、注文のたびに送料が必要だったり、届くまでに何日も掛かるようであったりすれば、きっと書店で購入するのだろう。単価が低く、利益幅の大きくない書籍の販売で送料を無料にすることや、すぐに注文の書籍が届けられるように在庫を持っておくことは、とてもハードルが高いことだが、それを成し遂げてしまったところにアマゾンの凄さがある。その秘密がこれだ。

Earth’s customer centric company

(地球で最もお客様を大切にする企業)

これはアマゾンの企業理念である。この理念に沿って活動をするならば、送料の無料化や大量の在庫を持つことは当然のことだと考えているのだろう。とはいえ、なかなかできることではない。

そして下の図は、同社が行ってきた書籍流通への取り組みである。アマゾンは、出版社(版元)→書籍卸(取次)→書店→ユーザーという従来の書籍の流通を、まずはリアルな書店からインターネット上の書店へとシフトを起こした。そして次には、書籍卸を中抜きし、出版社との直接取引を増やしている。出版社→アマゾン(ネット上の書店)→ユーザーという流れである。全国のリアルな書店に書籍を流通させようとすれば、書籍卸の有する物流機能は重要であるが、インターネット上の書店であればその必要がないわけだ。そのあおりを受けて、先般も書籍卸の栗田出版販売が破たんしている。さらに、そのいっぽうでアマゾンは、kindleを通して書籍の電子化を促進している。ユーザーの中には、重い書籍を手軽に読みたいとか、海外などで書籍が届けられない地域で読みたいというニーズがあるわけだ。いっぽうで、この流れの向かう先は出版社すら不要になるもので、最終的には作家→(アマゾン)→ユーザーという流れに向かっている。

このような書籍流通革命ともいえるアマゾンの動きに対して、既存の出版社や書籍卸、書店は彼らの培ってきたビジネスモデルを破壊するものとして、その警戒心、対抗心は強い。しかし、(ここからが重要)アマゾンは出版業界の既存のプレーヤーを追い落とし、自らが盟主になることが目的で書籍流通を変革させているわけではない。シンプルに前掲の企業理念に沿った活動をしているのだけなのだ。

「地球で最もお客様を大切にする企業」であり続けることが目的であって、出版業界の変革は目的を追求した単なる結果に過ぎないのだ。大切なのはお客さまであるユーザーであり、ユーザーの受け取る価値を最大化しようというのが彼らの目指すところ、既存の事業者が生き残ることではないのだ。

この理念原理主義ともいえる彼らの企業行動は、見習うべきことだと思うのでちょっと書いてみた。世間はアマゾンが何を引き起こしているかにフォーカスするが、目的(=理念の実現)に邁進する彼らの行動にこそフォーカスすべきだと思う。

株式会社 鎌倉新書

代表取締役社長 清水 祐孝