2025/07/01
社会
「2024年の出生数が初の70万人割れ 出生率最低1.15、揺らぐ経済基盤」(6月4日付日経新聞)
上記のニュースのように日本の出生数の減少はここ数年目立っているようで、昨年初めて70万人を割り込み68万人程度になったそうである。では出産年齢の平均どうかというと、近年上がっていて30歳ぐらいになっているらしい。そこで30年前の出生数はどのくらいだったのかと調べてみると、1995年に生まれたのは約118万人ということだった。生まれてくる男女をほぼ同数とすると女性は59万人。これに対して30年後、2025年生まれの女性は昨年生まれた68万人の半分の34万人、赤ちゃんは女性のお腹から生まれてくるのに、30年後その数は現在の6割弱しかいないわけだ。素人がこの程度の粗い計算をしてみるだけで、出生率を上げるための劇的な手立てでもない限り今後もわが国の出生数は減り続け、しかも絶望的な水準まで落ち込むであろうことは容易に察しがつく。
急激な人口減少がもたらす将来のリスクにはどのようなものがあるのか。たとえば働き手が少なくなり、消費する人も少なくなって経済が停滞することは簡単に想像できる。さらに公的な医療や年金制度の維持が困難になるとか、防衛や警察、消防など社会秩序や行政サービスは維持されるのか、などなど心配事は尽きない。
このようにある程度の想像力があれば、年々続く出生数の大幅減少はわが国の社会にとって深刻なリスクとして認識できるはずだ。しかしこうした、じわじわ訪れる長期のリスクや課題に対して、ほとんどの人は考えようとはしない。当然問題意識も高まらない。いっぽうで最近のコメの価格高騰のように、目先の問題には人々は大きな関心を示す。短期のリスクや課題は自らが利害関係者であるのに対して、長期のそれは将来世代がその受益者になるのでさらに関心が持てないのだ。
問題意識 | 負担 | 受益者 | |
長期的なリスクや課題 | 高まらない | 現役世代 | 将来世代 |
短期的なリスクや課題 | 高まる | 現役世代 | 現役世代 |
当たり前だけど長期的なリスクや課題はそれが顕在化してから手を付ければよいというものではない。だけど上記のような構造があるので、それがなかなか難しい。そこで私たちは見識のあるリーダー(指導者)が必要になってくる。
国の長期的なリスクや課題については、国民から負託を受けたリーダー(石破政権や国政に携わる人たち)が問題提起をして、国民(大衆)に認識させる努力をしなくてはいけない。国のリーダーを代弁すると・・
「わたしたちは未来の日本人、子供や孫や子孫たちに対しての責任がある。わが国が、わたしたちが映像で目にするような悲劇的な国にならないためにやるべきことがある。人口の大幅な減少は経済の停滞を招き、社会保障制度の維持を難しくし、防衛力を弱め、社会秩序の安定を脅かすことにつながる。したがって(少子化は世界のトレンドだとしても)①出生率を少しでも上げるためにやれることはすべてやらなくてはならない。そのうえで、少なくなった人口で国家財政を適切にコントロールするには、②こうした将来に備えるための財政基盤を健全にしておかなくてはならない。残念ながらわが国の財政の現状は健全とはほど遠いものである。そこでまずは早期に基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化させなくてはならない。こうした未来に対する責任を考慮した上で、現状を踏まえ適切な策を講じていかなくてはならない。」
「現在、コメの価格高騰に代表されるような物価の継続的な上昇が起こっている中で、実質賃金がマイナスになるなど国民生活が脅かされている。幸い税収も増えているので何らかの物価対策を講じる必要もあるかと思う。しかしながら恒常的な税収の減少となるような施策は、先ほどの長期的なわが国のリスクを考えると適切ではない。」
いつも書いているように、短期と中長期は常に対立する。そんな中、国家であれ企業であれ、リーダーは長期的にやるべきこと、やらなくてはならないことに常に意識を傾け、この実現を目指していく役割である。しかしながら短期的なことに目をつぶって良いかといえば、現実的にはそういうわけにもいかない。短期的なこともやらないと選挙で引きずり降ろされたり、株主からノーを突きつけられたりして、立場が失われ結局は長期的にやるべきことができなくなってしまうからだ。こうした二律背反する命題を何とかして両立させるのがリーダーの役割、わたしはそう理解している。
ここでは言及しないけど、1人2万円の現金給付なんて個人的には愚策だと思う。けど、やるならやるで、この短期の施策と同時に前述のわが国が直面する長期のリスクについて、石破首相は上述のように何度も何度もしつこいくらいに国民に説かなくてはならない。耳に胼胝ができるくらい連呼して、長期的な課題が国政で議論される流れをつくらないと。それにしても消費税の減税、廃止なんて野党は輪をかけてひどい。もうすぐ参議院選挙、与野党そろって短期的な耳障りの良いメッセージばかりを連呼する現状に対して、人口の減少以上のリスクを感じてしまうのはわたしだけであろうか。
株式会社鎌倉新書
代表取締役会長CEO 清水祐孝
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