2025/09/01
個人的価値観
2年前に「世の中、人手不足で大騒ぎだけど、そのうち余ってくるんじゃない?」なんて書いてみた。まずはこちらをご覧ください。
人手不足の先の先 (当コラム「展望」2023年7月1日)
ここではテクノロジーの進化が、さまざまな領域で人の仕事を知らず知らずのうちに静かに奪っている身近な事例を挙げてみた。そして、こうしたテクノロジーによる労働の代替は人手不足が叫ばれる今日のような環境下では必要性が高まるので、かえって加速化するであろうことを予測してみた。さらには、テクノロジーによる労働供給はいずれ人手不足を凌駕して最終的には人は余ってしまうに違いないと指摘してみた。
・テクノロジーの進化は人間の労働を日々こっそりと奪いつつある
・人手不足はテクノロジーの進化を加速化させ、どこかで人手余剰に陥る
という妄想だ。そして偉そうにも、こんなことまで書いていた。
「今日起こっている現象しか見ない人にとって人手不足は大問題だが、長期スパンで考える癖のある人にとっては、テクノロジーによって職を奪われた人々をどのように処遇するかが大問題なのだ」
あれから2年が経ち「当たらずとも遠からずじゃないの」なんて思わせるかのようなニュースが相次いでいる。例えば下記は、AI開発を主導する米国の巨大テック企業の人員削減に関する報道だ。
米テック、好決算でも9万人削減 AIで高まる技術者選別の荒波 (日本経済新聞 2025年8月5日)
巨大テック企業の人員削減は、貢献度の高い人材とそうではない人材の入れ替えを絶えず行っていくという定期的な人事政策に過ぎない、という見方もできるのだが、その件数や数が今年に入り大幅に増えているのだそうだ。AIの進展によって一部のエンジニア職が奪われているのだと推察される。
わたしはテクノロジーの進展が人手不足の現代から人手余剰の将来へと社会を変えていくであろうことは予測していたのだが、それがこうした最先端の分野から始まることは想像外であった。だか、考えてみればこれはとてもリーズナブルなことだと合点がいく。日々精度を上げているAI にプログラムを書かせた方がミスやポカを犯す人間よりも正確で美しいものを創り上げるのだろうし、自動運転とは異なり直接人に危害を加える可能性も低いわけだし。
ということでAIはいよいよ現実的に人の仕事を奪い始めた、と解釈するのが適当だと思っている。よくAIによって奪われるのはどんな職業か? といった解説の類を目にすることがある。確かにAIにとって変わられ易い職業や仕事はあるだろうが、シンプルに考えれば10人でやっていた仕事は半分の5人でできるようになり5人は職にあぶれる、そうした世界が展開されると思えばいいだろう。先進的な企業は雇用を削減し、いっぽうでテクノロジーを使いこなせない企業は競争から脱落してしまうのだろうから、いずれにせよ雇用の危機は避けられない。
「大丈夫、別の新たな雇用が生み出されるから」という楽観論の人もいるのかも知れない。確かにそうした側面もあるにはあるだろう。でもスピーディなテクノロジーの進展が人の仕事をどんどん奪っていく状況下で、それでも人間にしかできない仕事がそれを凌駕して生み出され続けるのだろうかと想像すると「それは難しいんじゃないの」と考えざるを得ない。
次にAIが受け持つ仕事はモノやサービスを作り上げることには貢献してくれそうだが、AI自身がマイホームや自動車を購入したいだとか、鮨やステーキが食べたいとか、ワインが飲みたいなどとは残念ながら希望しないことだ。AIは人とは異なり生産には貢献するが、消費には貢献してくれないのだ(電気ぐらいは消費するけど)。そうなると生産と消費のバランスが崩れるかも知れない。そして効率的に生み出され続ける生産に対し、消費を無理やり作り出す必要が生じるのかも知れない。すると恒常的なデフレに陥るのか? なんてことも想像してしまう。こんな観点からも国民にベーシックインカムとして一定額を支給して消費を作り出す、ということはあり得そうだ。ただそんなことをしてもおそらくは需給のアンバランスという問題の根本的な解決にはならないどころか、派生する変化はさまざまな社会不安を引き起こすのかも知れない。
国連による直近の推計によると直近で世界の人口が82億人という。言い換えれば82億人の人間と82億個の頭脳が存在しているわけだ。このうち頭脳の方だけが、例えば短期間に100億個増えてしまう、そんな話だ。82億人の人間と182億個の頭脳が仲良く共生することは難しく、相当な混乱が起こるのではないかと想像するのである。AIの進展はこれまでになかった種類の変化を社会に強いる。それも天地がひっくり返るような凄い衝撃度で。どうなるんだろう、どうなるんだろう?
そんな妄想を膨らませている。
まあいいか、そのころは死んじゃっているんだし。
株式会社鎌倉新書
代表取締役会長CEO 清水祐孝
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