会長コラム“展望”

わたしたちにとってのESG

2020/12/01

社会

わたしたちにとってのESG

ふだんの日は朝6 時ごろ家を出てプラプラ歩いて7 時ごろに出社する。たいてい出社時刻は社員の誰よりも早いことになる。つい最近までは、24 時間体制のコールセンターが同じフロアにあり、夜間に勤務しているメンバーが誰かしらオフィスにいたので、自分で電気を点けたりすることはなかった。

ところが先日、コールセンターが別のフロアに移転してしまった。ということで、誰もいないオフィスの電気のつけ方を覚える必要に迫られた。ある日、出社すると誰もいないはずのオフィスの電気が煌々と点されていた。消し忘れかと思って気にしていなかったのだが、その後もそんな日が何日も続いた。きっと消灯の取り決めに問題があるのだろうと思って、総務の社員に聞いてみた。すると夜8 時にいったん消灯になり、その後は残業している社員が必要に応じて利用し、終了すると消灯して帰る、そんなルールで運用されているという。要は最後のメンバーが消し忘れているか、まだほかのメンバーが残っていると思っているようだ。

電気代がもったいない、ということが言いたかったのではない。LED の時代、電気料金はそれほど大きなものではないだろう。つまりコストであれば大きな問題ではない。そうではなく、意識の欠如という大きな問題であることを指摘しておきたかったから、こんな小さなテーマに首を突っ込むべきだと思った。日本における発電量の75%は火力発電、つまり化石燃料を燃やして二酸化炭素を増やしながら得ているエネルギーである。そのような意識をメンバーに浸透させることが、これからの時代は特に重要だと真面目に思っている。

ESG というキーワードが多方面で取り上げられている。ESG は、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の3つを指す。企業が長期的に持続的な成長を実現するためには、ESG への取り組みが重要だとの見方が世界的に急速に広まっている。わたしも企業経営者として投資家に対する説明責任を有するわけで、このキーワードについての情報を集めてみた。しかし、当初はどうもピンとこなかった。

もちろん、このような取り組みは企業として社会に対する貢献につながるとは思うけど、そのためにはそれなりの労力やコストを掛けなくてならない。また、どこまで取り組みを広げるか、徹底するかについてもやればやるだけきりがない。そして何より、企業には競合が存在していて、顧客や収益をそれら競合と取ったり取られたりの関係にある。そんな中で、ESGの取り組みを強めたところで、競争力を失ってしまうのではないかという懸念もある。多くの顧客はESG への取り組みなどには関心がなく、ただコストと質の良い商品やサービスが欲しいだけだからだ。

しかしそのような考えも、時間が経つにつれ少しずつ変わってきた。そして今は当初の考えとは180 度異なるものになっている。それはESG に対する自らのスタンスが確立したということであり、わたしたちが行うべき何より重要な取り組みだと思っている。それも、教科書に載っているESG ではなく、わたしたちの企業なりのESG を推進しようと思っている。「環境に配慮して○○を行っています」「ダイバーシティの推進のために××に配慮しています」みたいな話ではなく、働くメンバーの意識の向上を図るための活動を継続的に行っていく、これがわたしたちにとってのESG だ。

わたしたちには、高齢社会の日本においてシニアやその家族の感謝の気持ちを高めること、憂いのない日々を送ることに貢献する、というミッションがあり、それに連なるビジョンや行動規範がある。これらを青臭く説いていくことが意識の変革にきっと繋がるはずだ。そしてメンバーのESG 意識が高まれば、彼らはきっと家庭や副業先や地域社会等々にその考えを持ち込むだろう。ESG 思考を企業内にとどめておく理由はないはずだ。「ESG 推進企業」ではなく、「ESG 思考浸透企業」を目指していくべきだと思っている。

株式会社鎌倉新書
代表取締役会長CEO 清水祐孝