会長コラム“展望”

デジタル支配力

2026/02/01

個人的価値観

デジタル支配力

気がつけば、人々はスマホなしには生活を送れない。もちろんわたしもその一人である。

朝、目が覚める。一日の始まりにまずは日経新聞をチェックするが、新聞紙を広げて読むことは少なくなった。郵便受けに新聞が届いてはいるのだが、手軽なので手元にあるスマホを使って電子版を読んでしまう。ちなみにスマホのOSはApple(iOS)かGoogle(android)という米国企業のいずれかに依存している。
その後、メールを確認する。わたしが利用するのはこれまたGoogleの提供するプラットフォーム、Gmailである。会社に到着すると、スマホに代わって支給されたPCが相棒となる。PCを立ち上げると、これまたGoogleやMicrosoftが提供するシステムやツールを利用しなくては仕事が回らない状況が出来上がっている。さらにビジネスコミュニケーションツールのSlack、生成AIのChatGPTを利用して仕事に臨む。どうやら会社のサーバーはAmazonのAWSにお世話になっているらしい。ちなみに会社がGoogleの検索システムを利用して広告を出稿していることも言うまでもない。
昼間にタクシーで移動する。運転手さんはカーナビには見向きもせずスマホに向かって目的地を告げる。目的地までの道のりや到着時刻はGoogle Mapsがいたって正確に教えてくれるのだ。

夜、家に着く。テレビをつけてみるがニュース番組はやっていないので、スマホを取り出してYouTubeにアクセスする。ここではリアルタイムのニュースがいつでも手軽に見られるのだ。テレビではこちらが放送の時間に合わせなくてはならないが、YouTubeではこちらの都合に合わせて興味のあるコンテンツを届けてくれる。
ドラマや映画が好きな人には動画配信サービスのNetflixが定番だ。ここでは話題の作品を好きな時間に観ることができる。さらには、人々がつながったり、情報を共有したりするためのプラットフォームの定番はFacebookやInstagramといったSNSで、ここにも多くの人々の興味や関心が引き寄せられている。

このようなOS、アプリ、クラウドサービス等々のデジタルサービスは、気がついてみればわたしたちの日常生活に、そして企業活動に欠くことができない時代となっている。そして、これらの製品やサービスのほぼすべては米国の企業によって提供されている。LINEのような国産のデジタルサービスもあるにはあるが、そうしたものはごくわずかというのが実情だ。

さて、こうした海外のデジタルサービスに対してわたしたちは利用料を支払っているのだが、この金額が年々膨らみ膨大な額になっている。国全体でみたこれらのデジタル関連の国際収支の赤字を総称して「デジタル赤字」と呼ぶらしい。その金額は、2014年に2.1兆円だったものが、10年後の2024年には6.7兆円と年々大きく拡大しているという。そして今後もこの傾向は、拡大こそすれ縮小することはないだろう。
実際に、2030年前後にはこうしたデジタル赤字が10兆円を超えてくるというレポートもある。今後も継続的に増えるであろう巨額のデジタル赤字は、為替が円高に向かいにくくなる要因となるだろうとした指摘もある。「なるほどな、そうなるとインフレが心配だな」などと思ったりするけれど、変動要因には他の要素もあるのだろうし、素人に為替のことはわからない。

長々と書いてしまったが、日本のデジタル赤字が巨額であることや、その為替への影響を指摘したかったわけではない。お金とともにわたしたちが差し出しているもの、それは「データ」である。
データを差し出しているのは日本だけではない。多くの西側諸国も同様である。おそらく数十億人の個人や民間企業、公的機関から膨大な量のデータを米国企業は吸い上げ、その蓄積が彼らの未来を確実なものとする。米国はこうした巨大な民間企業を傘下に持つことで、実質的に世界ダントツの地位を今後も維持するであろう。
もう一つの大国である中国はこうした巨大な米国企業に自国内のデータを差し出すことを拒否し、国内の企業にこれを収集、蓄積させる。一国で14億人の人口があれば巨大米国企業までとはいわないまでも、それに準ずる活動は可能だろう。そして同じことを彼らの友好国において展開することもできるだろう。

ウクライナやパレスチナなど領土をめぐる争いは収まる気配がないが、これからの世界は「領土の支配」にどれほどの意味があるのだろうと思ってしまう。「領土の支配」よりも「データの支配」こそがこれからの世界情勢のキーポイントではないのだろうか。その視点から見れば米中が圧倒的なパワーを持って世界に君臨することが想像できる。

ウィキペディアによると、国力とは「国際関係においてある国家がもつ様々な力の総体」とある。データの支配、いわば「デジタル支配力」こそがこれからの国力の源泉なのかもしれない。

株式会社鎌倉新書
代表取締役会長CEO 清水祐孝

画像素材:PIXTA