会長コラム“展望”

強い経済は実現するのか?

2026/04/01

社会

強い経済は実現するのか?

 高市政権はわが国の強い経済の実現に向け、重点投資対象として「戦略17分野」を選定、日本成長戦略会議においてその議論が進められている。さらに17分野における主要な製品・技術等として61品目が公表され、うち27品目については先行して検討が行われる、こうした報道が先日あった。

 17分野とは「AI・半導体」「デジタル・サイバーセキュリティ」「情報通信」「量子」「防衛産業」「航空・宇宙」「海洋」「造船」「マテリアル(重要鉱物・部素材)」「合成生物学・バイオ」「創薬・先端医療」「資源・エネルギー安全保障・GX」「核融合エネルギー」「フードテック」「防災・国土強靭化」「港湾ロジスティクス」「コンテンツ」となっている。技術革新が進むとともに、米中をはじめとした国家間の対立が先鋭化している現代において、それぞれが非常に重要なテーマであることは理解ができる。

 もちろんわたしは、テーマごとの詳細については何ひとつ知らない。だけど新たなチャレンジをするのであれば、まずは現在地点をしっかり認識しなくてはならないと思うのだ。ざっと眺めてみるだけで、ほとんどの分野が既に他国(ほとんど米中)から大きく遅れを取っている。わが国も一時はいい線を行っていた分野もそれなりあったと思うのだが、今日の状態になってしまった理由はなんだろう。思いつくままにいくつか列挙してみる。

・バブル期以降の長期にわたる民間企業の投資不足
・重要な領域における国家の戦略的投資の不足
・規制の緩和や撤廃の遅れ
・リスクテイクが割に合わない社会
・日本語というハンディキャップ
・中途半端に食べてはいける規模の国内市場
・優秀な人材が日本を目指さないさまざまな障壁

 気分が暗くなるが、こんなことが言われているように思う。このように、重点項目を設定して投資したところでうまくいきそうにない根本的な理由が数多く、しかも絡み合って日本には存在している。今回の「日本成長戦略会議」の方向性や取り組み自体はいいとしても「その手前に横たわるわが国の根本的な課題」についても同時進行で解決に向けた議論がなされなければ、投資の多くがリターンを生み出せずに結局は次の世代の負担になってしまう。そんな心配をした次第。

 さて、この戦略17分野の中の最優先で取り組む27品目のうち議論が最もスピーディに進んでいるテーマのひとつに「造船」がある。「AI・半導体」「量子」といった技術革新の最先端の分野とは異なり、どちらかといえばオールドエコノミーの香りがする領域だ。ここに官民合わせて2035年までに1兆円程度を投資するという計画が進行中だ。こんなニュースに接していたら、タイミングよく雑誌「週刊東洋経済」2026年3月7日号において「造船復興〜国策大転換の行方〜」と銘打った特集が組まれていたので、併せて読んでみた。

 かつてわが国は世界一の建造量を誇っていた。しかし円高や人材不足、オイルショック等の時代の波に翻弄されかつての勢いを失ってしまった。その間に中国や韓国が安価な人件費や国からの支援を受けて大きくシェアを伸ばし、今日では約5割が中国、約3割が韓国という構図になっている。厳しくなってしまったこの領域に官と民が力を合わせて戦略的な投資を行い、国内の造船・海運業を復興させようというのが今回のチャレンジである。もちろん闇雲な量的拡大によって建造量のシェアを再上昇させようという話ではない。わが国が技術的に優位に立つアンモニア燃料船や水素燃料船等により、温室効果ガスの排出を大幅に削減した船舶をデジタル技術を活用して建造することで世界に対して優位性を作り上げようというのがその算段のようだ。

 なるほど一見、筋の通った話ではある。しかし現在のところ、わが国だけがそうした技術を所有していたのだとしても、その差はすぐに埋められてしまうだろうというのがわたしの想像だ。EV(電気自動車)に使われる車載用電池の歴史がそうであったように、製造業における技術的優位性は、大規模な投資と、そこから生み出される安価での受注の連鎖によって瞬く間に埋め尽くされてきたのだ。

 1990年代から2000年代にかけて車載用電池は、パナソニックや三洋電機など日本企業の独壇場だった。しかし、現在では中国企業が50%以上のシェアを持ち、わが国の代表であるパナソニックはごくわずかなシェアを有するにすぎない。製造業において重要なことはどうやら「技術優位性」ではない。「大規模な投資とそれに見合った大規模な受注こそが肝要で、技術優位性は後からついてくる」。これが資本主義社会の悲しい特性なのである。

 「週刊東洋経済」の特集を読みながらそんなことを考えてしまった。今回の戦略投資対象の「造船」については、仮に一時的にはうまくいったとしても、長い目でみれば失敗に終わるだろう。安価なコスト、そして莫大な投資と莫大な需要の連鎖、これらを作り上げることができて初めて世界に君臨する製造業は成立するのではないか。それが車載用電池、家電、そして半導体の歴史であり自動車産業の近未来だ。中国においては一国でそれが成立する。しかし日本だけでは到底無理だろう。では韓国やアメリカ、あるいはアセアンや欧州とわが国はがっちり握れるのかと考えると、異なる政治状況、異なる経済状況のもとでは、どこかで対立は避けられない。理念は握ることができても・・。

 もちろん無学のわたしには「じゃあ、どうすれば?」という問いには答えられないのだけど。


株式会社鎌倉新書
代表取締役会長CEO 清水祐孝

画像素材:PIXTA