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会長コラム“展望”

ビジネス 2018.06.01

仕組みが変わるとき

 橋下徹(弁護士・元政治家)、池田信夫(学者)、橘玲(作家)、それぞれの分野でそれなりに有名な人たちではあるが、さてこの3人の共通点は何でしょう? と聞かれても答えられる人はまずいないだろう。

 答えは、わたしが有料のメールマガジンを購読している人たち、というものだから当たりまえである。この3名は、毎月の購読料を払ってでも読みたいと思わせてくれる情報を届けてくれる知識人とわたしの中では位置づけられている。


 さて、少し前まではこうした知識人の発信する情報に対価を払ってもらう仕組みは、著書からの印税にほぼ限られていた。しかしながら情報の収集方法が多様化した今日では、有料のメールマガジンを発行することで情報の対価を受け取る新たな手法が開発されたわけだ。これは彼らの経済的側面からは画期的なできごとといえるだろう。つまりこういうことだ。


 仮に1冊が1800円の著書が1万部売れたときの試算をしてみよう。読者が支払う総額は1800万円(1800円×1万部)となるが、その多くは出版社(メーカー)、書籍流通(問屋)、書店(小売)の収入となり、一般的に著者が得られる収入は印税(10%内外)に限られる。つまり、この場合の著者の収入は180万円(1800円×1万部×10%)になる。著者は市場で消費者が支払った対価の10%しか収入は得られなかったのだ。


 次に有料メールマガジンを想定してみよう。月額の購読料が1000円とする(ちなみに、橋下徹1000円、池田信夫500円、橘玲800円というのが実際の金額。それぞれ週刊だったり隔週刊だったりするし、1号当たりの分量も違うので一概には比較できない)。読者はコアなファンが多いと考え、書籍を購入する数の15%しかいないと想定してみよう(つまり1500名)。この場合、読者が支払う総額は書籍と同様の1800万円となる(1000円×1500名×12か月)。


 ところがメールマガジンの場合は、編集者も校正者も必要ない。内容が大事なので読みやすくする等の工夫も特段必要ないし、誤植などは発覚した都度直せば良いからだ。読者に直接配信できるから、印刷や製本はもとより、流通業者や書店も介在させる必要もない。したがって、読者が支払った対価をまるまる著者が得られることになる。とはいえ彼らは出版社にメールマガジンの運営管理を委託しているようだから、まるまるとはいかないだろう。だけど、仮に収入の30%業務委託のフィーを支払ったとしても、手元には、1800万円×70%=1260万円が残ることになる。


 価値の高い情報を発信する知識人にとって、ITの進展(メルマガがITの進展というには大袈裟だが)がその経済状況を大きく変えたことになる。いっぽうで、既存の仕組みの中で介在していたプレーヤー(ここでいう出版社、書籍流通、書店)は厳しい環境に直面する。こうした業界の既存のプレーヤーは、中小零細の淘汰、合併や吸収による大規模化などで生き残りを計るが、根本的な課題を克服できたわけではない。


 このような情報技術の進歩による業界激変の事例は出版ビジネスにとどまるものではなく、無尽蔵にある。例えば大規模小売業(デパート)という在庫、店舗、販売員を抱えたビジネスは、これらを持たないIT小売業からの攻勢になす術がない。不動産賃貸業に徹して生き残りを計るというケースも見られたりするが、魅力ある立地を無尽蔵に所有しているわけではないから、そのうち雇用を手放し、縮小均衡を目指すようになるだろう。

 そして、心配の極め付けは銀行だ。お金が貨幣からデータに変わってゆく中で、それをビジネスとして扱うのに適切なプレーヤーは大きな雇用、大きな店舗網、大きなシステムを持つメガバンクでは無くなってしまう。雇用、店舗網、システムが負の資産になり、信用や安全性をこれからのテクノロジーが担保できるようになる時、プレーヤーは変わってしまう。

 今日と明日では違いが分からないけど、10年ぐらいの単位で考えれば当たり前の話だ。


 仕組みが変わる時、既存プレーヤーが有していた資産が一気に負債に変わる。負債はない方がいいわけだから、新しいプレーヤーが台頭し、すべてを持っていく。個人事業の手漕ぎ観光ボートの代金ですらウィーチャットペイで支払う中国の状況を目の当たりにして、「こりゃ厳しいなあ」と、ひとりの日本人として残念に思った次第。


株式会社 鎌倉新書

代表取締役会長 清水祐孝