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会長コラム“展望”

ビジネス 2018.08.01

A君へ

 A君との出会いは5年ほど前に遡る。金融サービス会社の営業マンとしてやってきた彼は、当時大学を卒業して2年目の青二才だった。当然のことながら彼は、自らが勤める会社のサービスを販売する役割を負っていたのだが、それを単純に押し付けることはあまりせず、むしろ私たちが事業を行っていく上で役に立ちそうな企業や人を紹介するといったことを、労を惜しまずに行うことで関係性を構築するといったアプローチを取る、とてもセンスの良い男だった。


 そんな緩やかな付き合いが続く中、ある日彼は私に相談に乗って欲しいと言ってきた。どうやら日々の営業活動を通して多くの経営者と出会い接点を持つ中で、自らも起業し経営者になりたいという希望を持つに至ったらしく、そのためにさまざまな事業アイデアを温めてきた、と彼は言う。そして、いよいよその期が熟したと考えていると私に話し、一緒に起業しようとしている2人の仲間を私に紹介した。彼らは皆20代半ばの好青年で、なんだか羨ましく思ったことが記憶に残っている。


 前述のように、私は彼のビジネスマンとしての資質に気付いていたし、若いうちの起業は失敗したところでやり直しが効く。そして経営者は自らの成長を加速化させる職業である。さらに、社会への貢献を直接的に感じていける立場だと思っていたから、彼のプランに私は両手を上げて賛成した。


 ほどなく彼は会社を辞めて、宣言通り仲間たちと起業し、請われて私は少しばかりの出資をさせていただいた。彼らはWEBを利用したサービス事業を立ち上げようと考えていたが、ゼロからのサービスの立ち上げは人的にも資金的にもリスクが大きいと考えたのだろう、当面はWEBサイトやシステムの制作や運用、保守などの請け負いをするという、ある意味賢明なところから事業を立ち上げた。

 彼らの能力やセンスの良さは事業を順調にスタートさせ、当初から大きな赤字を出すことなく、少しづつ社員も増えていった。しかしながら、請け負いの事業は堅実ではあるが、大きな成長は望めない。将来の株式公開の夢を語って起業したA君に対し、株主としての私は「いつ自社サービスで勝負するの」と冗談交じりに問うていた。


 そんな中で数年が経ち、先般珍しくA君が私に会いたいと言ってきた。一杯飲みながら彼の話を聞くと、彼はいよいよ自社サービスをローンチさせ、同時に請け負いの事業からは撤退すると言う。安定的な収益を捨て、勝負に出るという覚悟をついに決めたのだ。いっぽうで、その決意は一緒に起業した仲間との意見の対立を生み、彼らとは別々の道を歩むことになったという悲しい事態を招いてしまったことも告白した。


 私は彼の話を聞きながら、自らの昔の経験を思い出した。それは、現在主力であるWEBサービスに乗り出そうと考え、新たな人材を採用してころの話だ。当時は出版事業で売り上げを100%上げていて、私もプレーヤーとして全国の顧客に対して取材や営業活動を行なっていた。

 ある日、私の出張中に会社から電話が掛かってきた。何でも、出版事業を取り仕切っていた社員と、新たに入社したWEBサービスを企画する社員が取っ組み合いの喧嘩をしていると言う。当時出版事業に関わっていた社員は一様に皆忙しく、締め切りなどが近づくと夜遅くまで働いていた。

 いっぽうでWEB事業は当時まだ企画段階、売り上げもゼロで社員は定時になると帰宅していた。売り上げゼロのくせに1日PCに向かってのんびり働く仲間が許せなかったのだろう、出版事業の社員が「在庫を倉庫から取ってこい」「棚卸しをしてこい」などと迫っていたのだ。

 対立は激化し、いよいよ「社長、どっちを取るんだ」という雰囲気から逃れられない状況になってきた。私は、「いま、全ての売り上げは出版から上げているが、出版は頭打ちになる日が必ず来る、会社を発展させるにはWEBをモノになるまで続ける、これが方針だ」というようなことを社員たちに理解してもらおうと思い必死に説いたと思う。でも、それを聞いた当時の出版に関わっていた社員は相当落胆したのだろう、エース社員が去り、その後も1人欠け2人欠け、出版事業のメンバーはとうとうみんな辞めていってしまった。私は目の前が真っ暗になり、不安でノイローゼになりそうだった。


 当時の判断が間違っていなかったことを実感できるまでには相応の時間が必要だったけど、不安や苦しみは日々の忙しさの中で徐々に癒えてくる。そして、別れは次の出会いを生む、正確には別れがあるから次の出会いがあるわけだ。このような苦しみは会社を発展させようと考える経営者にとって必ず通らなくてはならない道なのだ。今から思えば、目の前の100%の売り上げに固執していたら、現在の状況は生まれなかったわけだから、ナイスチョイスではあったわけだ。


 A君、あなたは崖っぷちに立っていると思っているだろうが、実は経営者としてのセンターラインを堂々と歩んでいる。辛いし、苦しいし、落ち込むけれど、それが君の選択した道だから諦めずに頑張るしかない。苦悩の先には新たな視界が広がるからと伝えてあげたい。今の彼にはそのメッセージを受け入れる余裕すらないだろうが……。

株式会社鎌倉新書

代表取締役会長 清水祐孝