会長コラム“展望”

現実への対処法

2019/08/01

個人的価値観

 


日本経済新聞の「私の履歴書」でプロゴルファーの中嶋常幸さんがご自身の半生を綴っていた。ジャンボ尾崎さんや青木功さんと共に日本を代表するトッププロとして華やかな一時代を築いた裏には、地道な努力だけではなく、壁にぶち当たる、もがく、葛藤する等々いろいろな場面があって面白い。

 誰だってずっとラクに生きてきたわけではないから、「私の履歴書」に登場するような各界の著名人の光の当たった部分だけでなく、影の部分にも多くの人が共感するのだろう。

  以前にも「専門性を極める」というタイトルでゴルフのことを題材に書いたことがあった。そのときは、内容に関して何人かの人から感想やコメントをいただいた。あらためて、ゴルフのスコアがどのように構成されているかという点についての私見を書いてみたい。

①そもそもの才能や努力にとって獲得された技量
②その時々の運や不運
③運や不運に対する自らの受け止め方や対処法


この3つの掛け合わせによってゴルフのスコア(数字)は構成されているのではないか、と思っている。中島さんのように才能に恵まれた人が、一日に3000発(!)もの練習を長期間積み重ねれば当然技量は向上する(練習場で100発打ったらわたしは厭きる)。しかしながら、獲得できた技量が大切な場面で100%発揮できるわけではないから、スコアは上下動し、いつも勝てるわけではない。その上に、時々の運・不運が乗っかってくる。運・不運は技量とは特段の関係はない。パターを思い通りに打ったのにカップに入らないときもあれば、思いどおりに打てていないにも関わらず入ってしまうときもある。


要は目標や希望が叶えられるか否かは、①の才能や努力から生じた技量だけではなく、②の運・不運も大きな要素であるということだ。特に短い時間で結果を決めてしまう世界、たとえばゴルフや麻雀、入学試験、なんかは②の要素の比率が比較的大きくなる。しかし、ゴルフで言えば1試合ごとの勝負ではなく、賞金王のように1年間を通した結果となれば、①の技量の要素のほうが大きい。

とはいえ事はそれほど単純ではない。短期的な結果は運・不運の要素が大きいとはアタマでは分かっていながら、それらを分けて考えることはそれなりにハードルが高いようだ。

プロゴルファーを見ていても、一瞬巡ってきた幸運を技量と混同し、過信してしまって伸びなくなる人もいるようだし、逆に一時の不運を技量不足と勘違いしてしまい、変える必要のないものを変えてみて、上手くいかなかったりする人もいる。そのように考えると、③運や不運に対する自らの受け止め方や対処法を確立すること、が一つの道を究めようと考える人にとってはとても重要なことだと思えてくる。

運悪く希望通りの結果にならないシーンを思い浮かべてみよう。この思い通りにならない現実に対してわたしたちは、心が落ち込む、腹を立てる、嘆き悲しむなどの反応をする。冒頭の中島常幸プロの事例で言えばマスターズの13番ホールで13打を叩いたときが正にそのタイミングだ。だけど、よくよく考えてみれば「突き付けられた現実」と「腹を立てるという感情」が対になる必要性はどこにもない。つまり、現実に対する自らの受け止め方があって、その結果としてわたしたちは腹を立てるという感情が生まれるのだ。


・希望通りにならない現実→腹を立てる ×

・希望通りにならない現実→(自らの受け止め方)→腹を立てる 〇


このように考えてみると、腹を立てないで済ますためには、希望通りにならない現実を変えるという手もあるが、それが叶わない場合には、現実に対する自分の受け止め方を変えるという手もあることに思い至る。客観視する、俯瞰して考えてみる、そんなことができるようになれば、受け止め方を少しずつ変えることができるはずだ。


このような局面はビジネスの現場や職場の人間関係でも頻発する。希望通りにならない現実に直面したとき、多くのビジネスマンは受け止め方を変えることができず、置かれた環境を変えようとする。いっぽう経営者っていうのは環境を変えることができないから、受け止め方を変えるしかない現実に気づき、そこから学ぶ。これは経営者の最高の役得だ(笑)。

中嶋常幸プロはある日の「私の履歴書」にこのように書いている。


後悔でもないけれど、時計の針を巻き戻せるなら、米ツアーに腰を据えて戦うべきだった。そうすれば勝てたのでは、と思う。とうに過ぎた話で、しかたがないが。


推察するに「勝てたのでは」と思うのは、米国で腰を据えて戦えばゴルフの技量が上がるということを言っているのではないのだろう。さまざまな経験を積み、そこから学んだ結果として、目の前に起こる現実に対する受け止め方や対処法を確立したに違いない、という意味合いでそう書いているのだろう。なので、腰を据えて戦えば必ず勝つ(運をつかむ)チャンスが巡ってきたはずだ、ということだと思う。


株式会社鎌倉新書

代表取締役社長兼会長CEO 清水祐孝