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会長コラム“展望”

個人的価値観 2014.01.31

半沢直樹と『永遠の0』

 昨年から今年にかけての年末年始の休暇は、曜日の関係で長くなる会社が多かったのではないだろうか。私たちの会社も同様で、一部の機能を除くと9日間の休業期間があった。もちろん経営を担う立場の人間にとっては、業務は休みであってもそんなことは関係ないし、ましてやアタマの中までは休業できない。
そんな中ではあったが、長い年末年始の休暇は、たまにはビジネスと関係のないことに時間を使ってみようと思わせるのに十分であった。

 私の場合、テレビも映画もほとんど見ない。テレビは見ても早朝のニュースぐらいで、ドラマとなるともう20年は見ていないと思う。映画も飛行機の中で上映しているものを見たことはあるが、それも数年にせいぜい一作ぐらいのもの。そこで、せめて話題のテレビドラマと映画の原作を読んでみようと買い込んだのが、『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』そして『永遠の0』。前者はご存じ半沢直樹というタイトルで記録的な視聴率を稼ぎだした銀行員のドラマであり、後者は昨年末に封切りになった太平洋戦争時の軍人を主人公とした映画である。

 内容については、ここで解説するまでもないと思うが、前者の2つの作品については、バブル経済華やかなりし時代に入行した中間管理職の銀行員が、仕事を通して取引先や行内の悪人たちの企みを暴き懲らしめるというもので、何とも痛快な読み物である。いっぽうの『永遠の0』は、海軍航空隊の軍人として活躍し、最後は終戦間際に特攻兵として壮絶な死を遂げた主人公の生きざまを、その子孫たちが生き残った軍人たちからのインタビューを通して詳らかにしていくという涙と感動のストーリーだ。『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』は合計250万部、そして『永遠の0』に至っては450万部という発行部数は、いかに多くの人々の共感を呼んでいるかが窺い知れるわけだが、何がそうさせるのだろうかと読後の余韻の中で考えてみた。

 それは、ひとことでいえば主人公の生きざまということになるだろう。
 銀行という組織の中で、権力を持ちつつ自らの保身や利益に走る上司たちの卑劣な行動に対して、権力を持たない主人公半沢直樹が、正義感を失うことなく粘り強く状況を覆していくその姿に私たちは共感を覚えるのだ。同様に、「永遠の0」においては、その肥大化して澱んだ組織が銀行ではなく海軍という設定であり、権力を持ち自らの保身や利益に走るのは、エリート軍人たちである。ここでは半沢直樹とは異なり、主人公の宮部久蔵はそのような悪人たちを懲らしめることはできない。そして自らが、周りの人間からはやりきれない、そして壮絶な死を選ぶことで、巨悪の存在を浮かび上がらせている。

 私たちの生きる現実の社会は、複雑な組織や人間関係で構成されていて、そんな中で人はさまざまな境遇や運命を生きている。欲望をコントロールしきれず、正しさを置き去りにしてしまうこともしばしばである。そんな環境の中で、正しさを貫き通す半沢直樹や宮部久蔵の仕事を通じた生きざまは多くの人々の共感を呼ぶのであろう。 仕事はお金を得て、生きるために必要なさまざまな糧を確保するために行うことではあるが、仕事はそれ自体が人間としての価値を高めるための有効なツールであることを改めて認識させられる。半沢直樹は銀行員という仕事を通して、宮部久蔵は海軍航空兵という仕事を通して、人としての価値を高めていった。
 仕事とは何か? それは、人間の価値を高めるための問題集であり、問題に正しく取り組み、正しく解いた結果が採点されたものが収益であり収入である。
余裕がなくなり収益や収入を得ることを目的化してしまう時もある。でも人生、現実と理想の間をふらふら歩みながらも、最後は理想の側の海にドボンと落ちたいものだ、半沢直樹や宮部久蔵のように。

株式会社 鎌倉新書
代表取締役社長 清水 祐孝