会長コラム“展望”

シュウカツのこと

2018/11/01

社会


わたしたちの会社も人が増え、以前は自分がやっていた仕事も多くは仲間たちが担ってくれるようになってきた。でも、スケジュールの空白時間が増えたかというと、全くそんなことはなく、まあよくもこんなに入るのだというくらい、様々な予定が書きもまれていく日々だ。


そんな中で、このところ多くの時間を費やすことになっているのが、金融機関で行っているセミナーの講師の役割だ。特に大手の証券会社の顧客は高齢の富裕層が多いから、彼らに向けて「終活」について話して欲しいとの依頼がある。


証券会社からすれば、普段から行っている「投資戦略セミナー」ではマンネリ化して集まりも悪いし、参加者も固定化するらしい。そこで終活のような、高齢者の関心の高いテーマであれば集まりは良いし、休眠顧客が来てくれたりするという。セミナーを開催して顧客に来店してもらえば、担当者と対面で話をすることにができ、金融商品の案内もできる、ということらしい。いっぽう、わたしたちにとってもIR(インベスター・リレーションズ 投資家に向けて経営状況や将来の方向等についての情報発信のための活動)の意味も含め、個人の投資家に会社のことを知ってもらうのにこうしたセミナーは役に立つのだ。


例えばこの8月は、終活に関するセミナーを全国で8回も行った。数えてみると月平均で5回くらいやっているので、年間で約60回になる。参加者の数は大小さまざまだが平均で50名程度が参加しているから、年間ではおおよそ3000名もの高齢者と接点ができているということになる。会社のことを知ってもらうためにこれほど良い機会はないなあ、と感じたりしている。


さて、セミナーをやっていると気づくことがいろいろある。例えば、地方に行くと人も少ないし、終活に対する意識もそれほど高くないだろうから来客は少ないだろう、などと高をくくっていたら、意外とそんなことはなかったりする。むしろ地方の方が眼差しも真剣なように感じる。


例えば、香川県(地方ならどこでも良いのだが、先般行ったので)に生まれた人は、以前なら地元の学校を卒業すると、そのままその地で働き出す。そして、(結婚して実家からは出ていくものの近くで暮らし)そのまま同じ場所を離れずに生涯を過ごす。むかしはそんな一生がごく一般的だった。ところがわが国の産業構造が変化して、第一次産業から第二次、そして第三次産業中心になってくる。経済が発展し、組織で働く人が中心になってくる。そうなると、同じ場所を動かずに一生を過ごす人はほとんどいなくなる。親にしてみれば、子供とは高校生までは一緒に住んでいたけれど、その後は一緒に暮らすことはない、となってくる。


そんな生活をするようになった家族にとって、親子の関係は以前の古き良き(?)時代のものとは大きく異なるのだ。地方に住んでいる親が年を取り、今では一般語化した「終活」と呼ばれる領域について考えるとき、そこには気軽に相談できる家族はいない。また、親が子に命令できるような世の中でもない。社会の変化が、親子の関係を変えてしまったのだ。そして親は、からだのこと、お金のこと、そしてその後のことなどについての課題を、自分で解決していかなくてはならない世の中になった、ということなのだ。


高齢社会の進展が終活のニーズを高めたのではなく、社会の変化に伴う、家族関係の変化が終活に対する問題意識を高め、高齢者をセミナーに出向かせる。もちろん、セミナーに出向くことと、行動を起こすことには大きなギャップが存在しているわけで、このギャップをどのように埋めていくのか、そして、この時代のニーズに応えていくか、わたしたちの大きなチャレンジだと感じる日々である。乞うご期待ってところかな。


株式会社鎌倉新書

代表取締役会長 清水祐孝