会長コラム“展望”

ふつうに考えれば起こること

2012/04/01

社会


最近になって景況感がかなり改善してきたようだ。日経平均株価は1万円を超えてきたし、為替レートもドル・円で80円を大き く上回ってきた。東日本大震災から1年が経ち復興需要もいよいよ盛り上がってきていると聞く。さらには、原発の事故を契機に減っていた国内在留の外国人も日本に戻ってきた。外国からの観光客もほぼ震災前のレベルにまで近づいてきたという。

海外に目を向ければギリシャに端を発したユーロ危機も、とりあえずではあるが一段落といった感がある。アメリカもリーマンショックで落ち込んだ後の景気回復はのろのろした歩みが続いているものの、株価は堅調で、近い将来の好景気を先取りするかのようである。

さて、これらの材料は確かにグッドニュースではあるのだが、多くの人々にそれが実感できるようになるまでには相応の時間が必要なのだろうし、状況がいつ悪化するとも限らない。だいたいここ最近はリーマンショック、ユーロ危機、震災など、ゆっくり積み上げたものを一発のイベントで台無しにしてしまうというパターンが多いので安心はできない。目先の環境はそのような感じであるが、今回は少し長いスパンで起こるであろうことをいくつか想像してみた。


政府の危機がやってくる?

ご承知の通り日本の政府債務残高は莫大だ。

GDP比ではダントツ世界一で、危機に瀕しているイタリアやギリシャの比ではない。もちろん債務が大きくても返済が可能であれば問題はない。企業においても、倒産するのは債務が多いからではなく、それが返済できないからなわけだし。したがって政府がいくら国債を発行しようとも、それが(利息だけで も)返済されている限り問題はない。

ただし、そのような自転車操業は明らかに不健全だ。政府は現在、このような状況からの脱却を目指して、消費税の引き上 げを目論んでいる。ところが、与党からも引き上げに反対、つまり自転車操業を続けてもよい、という反対意見が公然とわき上がっている状況だ。もちろん、反対勢力の最大の関心事は日本の財政危機をどう克服するかではなく、権力の奪取にあるわけだから、それはそれで合点はいく。しかし、そんな中で仮にこの消費税増税法案が可決されないということになれば、そこは海外の世論や金融資本、あるいは格付け機関という外圧によって相応の仕打ちを受ける危険性は指摘して おくべきだろう。

たとえば格付け機関というものは、国債などの発行体の健全性の実態を評価するものだ。しかし、実際に起こっていることは、格下げになれば投資家が逃げる、その結果さらに健全性が損なわれる。そして、さらなる格下げが行われるという悪循環である。

格下げは結果的に地獄のサイクルの入り口の役割を果たしているのである。

危機は危機的な状況に陥ったから起こるのではなく、(仮に危機的な状況でなかったとしても)危機的な状況だと多くの人々が考え た時点で起こることをしっかりと認識してほしいものである。政府の財政危機問題は一朝一夕に解決できる問題ではない。したがってふつうに考えれば、どこかで危機がやってくる。その時に政府や国民がどのような行動を取ることができるかが問われる時が来ると思っている。


失業率は早晩2ケタへ

日本の失業率は欧米の先進諸国に比較すればまだ低い部類に入る。しかし、これもふつうに考えればだんだんと欧米並みになってくるだろう。理由は雇用を生み出 せるだけの新しい産業が生まれにくくなっていることが大きいだろう。

製造業は日本の中心的な産業ではなくなりつつあるし、あったとしても製造業の雇用は主に海外で生まれる。平均年齢がおおよそ45歳(世界の平均年齢は約30歳)という中で活力のある内需を見つけ出していくことは難しい。医療や介護などの高齢者向けのサービス業などが成長分野として期待されるところだが、そのような意識は今の政府には乏しいように見える。むしろ、解雇の制限など雇用に対する規制を強めることで雇用を維持しようと考えているようだが、これはかえって逆効果だ。若年層の正規雇用に対するインセンティブを弱め、非正規雇用と海外での雇用へのインセンティブを高める結果になっている。経済のボーダレス化によって新興諸国でのコストの低い人材を利用してできる分野が拡大していることや、コンピューターによって業務が効率化しているという面も雇用にはマイナスであろう。

そんな中で、2ケタの失業率が当たり前になり、雇用の確保が日本の 最大級の社会問題になっていくことはほぼ間違いのないところだろう。


金正恩体制は続かない(番外編)

トヨタのような大きな組織があったとする。オーナーがそこで働いた経験のない20代の息子を社長に据え、自らはきれいさっぱり引退してしまったらその組織はもつだろうか? さらに、その組織の業績は悪く、待遇に不満を持つ社員がたくさんいたらどうだろうか?

おそらく、現在の北朝鮮はそのような状況下にあ る。金正恩が自らの意志を亡き父親のブレーンに指示して、彼らは指示通りに、動いてくれるのだろうか。思い通りにならなければ、彼はブレーンを取り替えよ うとし、そこには軋轢が生じることになるだろう。そしてもし、そのように考える人たちが政権の中枢にたくさんいたらどうなるだろう。ふつうに考えると北朝 鮮はそう長くは続かないように思うのだが、いかがだろうか。


今月は妄想に付き合ってもらってすみません。


株式会社鎌倉新書

代表取締役社長清水祐孝