会長コラム“展望”

シニアマーケット

2014/05/31

ビジネス

「日本は超高齢社会、金融資産はその大半を高齢者が所有している。そんな中で御社はシニアマーケットに対して、情報ビジネスを行っている。いいポジショニングですね」。そのような意味のことを時々言っていただくようになった。そう言っていただけるのは正直ありがたい。だけど弊社は、葬儀・仏壇・お墓といったいわゆる供養という分野に対するサービスを行っているだけで、高齢者を対象としたものとしては、医療や介護、資産運用、レジャーなど他にも巨大な市場が多数存在している。確かに、人の死は個人や家族にとって大きなターニングポイントであり、事業者側から見れば、供養の領域以外にも大きな消費を生むタイミングではある。

でも供養には、その本質的な意義や価値、そして社会の変化に伴う消費者ニーズの変化という2つの大切な流れが存在していて、このことを見つめ続けることで、消費者の満足や共感をいただくと共に、直接の供給者である事業者を補完する役割があると私たちは考えている。やり残していることは山ほどあるのだ。そこを中途半端にして、魅力的だからといって周辺の領域に出ていくことは考えていないし、そもそも経営資源もない。だいたい、目の前の一人ひとりのお客さまの「ありがとう」のお言葉をきちんといただけるようにならなくては、余所に行ってもろくなことにはならないだろう。

さて冒頭の言葉は、わが国が世界最先端の高齢社会に突入する中で、高齢者に向けたさまざまなビジネスも中長期的に活況を呈すであろうということを示唆しているわけであり、多くの関係者が認識を共有するところだろう。そこで、この「高齢者向けの市場=シニアマーケット」について少しばかり考えてみたい。

以前、東証に上場していたシニアマーケティングという企業があった。残念なことに、架空の売り上げの計上や利益の操作等を行い上場廃止になってしまった会社だ。「これからの日本は超高齢社会、シニアのマーケットが有望ですよ。私たちはシニアのコミュニティを所有しており、このマーケットについて知りつくしています」というメッセージで、大企業や多くの個人から資本を調達すると共に、市場調査や、コンサルティングなどを積極的に行っていた。確かに、そのメッセージを聞くと、うんうんと頷いてしまう話ではある。そして企業は自社の取り扱う商品やサービスを、どのようにして爆発的に増加する高齢者にも利用していただくかで悩んでいるわけだから、その攻略法を知ることができれば新たなビジネスチャンスは拡大すると考えるのも尤もではある。

だけど、それは売り手の思考に他ならない。一度、自らが消費者の立場になって考えてみて欲しい。私たちは何らかの商品やサービスを購入しようとする際に、それがシニア向けのものかどうかを意識するだろうか? そんなことは全くないことは簡単に合点がいくだろう。私たちは単に、必要あるいは欲しいと感じる商品やサービスの購入をするだけで、それがシニアに向けたものかどうかは一切関知しない。同様にシニアのコミュニティに参画したいという人も、マーケッターの願望とは裏腹に、ゼロとは言わないがほとんどいないだろう。

シニアのコミュニティが成立しえないわけではない。しかし、それは興味関心が先にあって、そこに集まった人たちを外部から眺めてみると、その集合体に属しているのがシニア層だったということなのである。

「シニアマーケットを開拓したい」という人は多い。だけどシニアマーケットという母集団が最初にあって、そこに対して何らかのアプローチをしようという思考は間違っている。その母集団からの声を吸い上げれば、彼らの興味関心のある分野の商品やサービスの改良や改善に結びつけることはできるが、そこに対して新たな商品やサービスへの関心を得ようとするのは至難の業だ。

「シニアマーケット」確かに響きは良いコトバだが、売り手と買い手の認識には大きなギャップがあるように感じるのだ。シニアというカテゴリーに人が群がるのではなく、人は「したいコト」「欲しいモノ」に群がるだけなのだ。

株式会社 鎌倉新書

代表取締役社長 清水 祐孝