会長コラム“展望”

ワールドカップと幸運との関係

2023/01/01

個人的価値観

ワールドカップと幸運との関係

あけましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。


年末に行われたサッカーワールドカップ。日本はかなりいい線まで行ったけど、最後はPK戦で負けてしまった、う~ん残念! 予選では優勝候補の常連であるドイツやスペインを撃破したくらいだから、ベスト4とか、下手したら優勝とかになっても不思議はない、そんなワクワク感を持たせてくれた活躍だった。結果はベスト16だけど、わたしたち国民を共通の目的(=勝利)に向かって結束させ、気分を高揚させてくれた好イベントであった。


さて、今回のワールドカップはアルゼンチンがフランスに、激闘の末これまたPK戦で勝利し、栄冠を手にした。でもアルゼンチンが世界一の実力を持った強いチームかといえばそういうわけでもない。強いのはその日の「勝負運」である。実力を競っているとみんなが思っているワールドカップで実際に行われているのは、一定の強さを持ったチーム同士の運比べなのである。日本はドイツやスペインに勝利したけれども、実力がこれらの国より優っているかというとYESと答える人はそれほど多くないだろう。


例えばワールドカップをこのような形で開催するとどうだろう。予選は同じように4チームで総当たり、それぞれ10試合ずつ行って優位なチームに勝ち点を与え上位2チームが決勝ラウンドへ進出する。決勝ラウンドも、それぞれ10試合ずつ行って優位なチームがベスト8、ベスト4、決勝と勝ち上がっていく。つまり優勝するには予選リーグを30試合、決勝リーグを40試合戦わなくてはいけないわけだが、このようにすればおおよそ実力通りの結果が得られるのではないだろうか。


だけどこんなことをすると、開催期間が何年にも及んでしまいワールドカップは商業的に成立しない。そもそも、サッカーファンをはじめとした世界の人々は、そんなものを望んでいるわけではないのだ。彼らがワールドカップに求めているのは、1つの目的に向かって一致団結し、自分や仲間、あるいは社会に高揚感が生まれること、要は盛り上がるイベントであって、真に実力のあるチームはどこかを明らかにすることではないのだ。放ったシュートがゴールポストに当たって中に入る時もあれば外に出る時もあるし、PK戦では味方のキーパーが左にヤマを張ったら、運よくそこに敵のペナルティキックが飛んでくるときもある。実力が一定のゾーンに入っていれば、確率の高低はあるにせよゲームに勝てる可能性はある。ましてや90分だけのこと、ここがサッカーというゲームの面白さなのだろう。そんな中、有能でばくち打ちの監督の功績もあり日本はドイツ、スペイン戦で当たりくじを引いた。勝負は時の運とはよく言ったものだ。



話は変わるが、今年わたしは60回目の新年を迎え、まもなく還暦を迎える。干支が一巡するくらい長く生きていると、当たり前だけどいろんなことが見えてくる。ワールドカップに絡めれば、人生も一定の能力を持ち、一定の努力を行った結果として、一定の実力を持った人たちによる運比べだということ。仕事柄、素晴らしい経歴を持った若くて有能なベンチャービジネスの起業家に会うこともある。だけど、彼らが成功するかどうかは運次第、そんな状況をたくさん見てきた。ビジネスの世界も、予選ラウンドは実力次第で勝ち残れるけれど、決勝ラウンドは残念ながらくじ引きなのだ。


国内のIPO(株式公開)の領域でもチケットを手にするのは年間100社程度。でもそれを希望し、相応しい実力を持った企業は少なくとも300社や500社はあるだろう。実力の順にチケットが手渡されるのではなく、幸運な順だ。選に漏れたら来年は優位になるかといえばそうでもない。来年にはまた数多くの実力を持った会社との幸運争いが待っている。


若いうちは、あるいは歳を取っていても洞察の足りない人は、なかなかこれが分からない。単純に成否は実力で決まるとものだと思って、縁とか恩とかを棚上げにして、そちらの方に引き込まれて行ってしまう。そんな人も多く見てきた。「運」「縁」「恩」似た響きのこれらの言葉は、もしかすると関連があるのかも知れないな。


すべての人は幸運を求めて生きている。では幸運はどこからやって来るのか、どうしたら掴めるのだろうか。当たり前だが、そんなこと誰にも分からない。分かるくらいだったらこの神秘的な世の中、人々の人生は成立しない。でも理解できることも少しはある。まずは、自分にとって何が幸運なのかを定義すること。世間や他人様のではなく自分の定規を持つことだ。そうすれば幸運な人が激増し、世の中はもっと良くなる。そして、幸運をつかんだ人には義務が同時に発生する。たとえば他人様の幸運を手伝うことだ。逆に言えば、この義務を履行できる人に幸運は提供されるのかもしれない、こちらは当てずっぽうだが。


年頭からヘンな話になっちゃった、ゴメンなさい。


株式会社鎌倉新書
代表取締役会長CEO 清水祐孝