会長コラム“展望”

小売業のいま

2010/12/01

ビジネス


仏壇仏具店や墓石店は一般消費者に、主として商品を販売する業態であり、葬祭業は主としてサービスを提供する業態である。

前者はまさに小売 業の一角に位置づけされるものであるが、葬祭業もまた一般消費者に何かを販売するという意味で、小売業とビジネスモデルは共通である。そこで、普段は自らのビジネスのことしか考える余裕のない読者のために、今日の小売業をめぐる環境がどのように変化していて、企業はどのように対応しているのかについて簡単に見ていきたい。

まず、小売業をめぐる環境であるが、これは「財布の紐が固くなった」といわれる通りで、マクロ的には「家計調査」 (総務省)の消費水準指数等からも、1990年代の前半をピークに下降トレンドを辿っていることは明らかである。また、販売側の指標としても「商業販売統 計」(経済産業省)やさまざまな業種の指標、例えば「百貨店売上高」(日本百貨店協会)、「チェーンストア販売統計」(日本チェーンストア協会)、「新車販売台数」(日本自動車販売協会連合会)「外食産業市場動向調査」(日本フードサービス協会)等があるが、いずれも日本の個人消費の厳しい実態を浮き彫り にしている。

この原稿を書くに際して、さまざまな統計を眺めてみた。もちろん、この十数年の間で全体として個人消費が減っていく中でも、通信費(主に携帯電話やインターネット接続料)などの増えているものもあるし、生活のための食費など減らすことのできないものもある。そのいっぽうで大きく減らしているものもあるのだろう。

そのように考えてみると、消費については全体的にこのようなことが指摘可能である。

「生活する上でどうしても必要なもの以外はなるべく買い控える」

「(機能を満たせば)安く済ませられるものは安く済ませる」


仏壇やお墓、葬儀は生活の上でどうしても必要なものではなく、安く済ませる方法もあるから、個人消費における負け組みグループに属するわけだ(余談だが、同 じ視点から見れば本来、自動車も同じ負け組みグループに属するのだが、政府は国費を自動車という特定の産業に投入し、一時的に自動車業界に利益をプレゼン トし、個人消費をかさ上げさせた)。

さて、そのような小売業にとって難しい環境の下で、どのような小売業が台頭してきているのか、考えてみよう。


大規模化する小売業(売上を拡大)

イ トーヨーカ堂、ジャスコ(イオン)、ダイエー、西友、マイカル、ユニーなどなどGMS(総合スーパー)の業態では、以前は多くの企業がひしめいていた。現在では、イトーヨーカ堂(セブン・アンド・アイ)とジャスコ(イオン)のグループが2台勢力となり巨大化した。百貨店においても、伊勢丹と三越の統合や、 大丸と松坂屋によるJフロントリテイリングの発足など、規模の拡大を通して売上を拡大すると共に、(若干の)粗利益の改善や、コストの効率的支出を通じて、企業の生存を計って行こうという動きである。

家電量販店業界(ヤマダ電機やエディオン、ビックカメラなど)も同様の動きを取っている。

これらの企業の粗利益は総じて低く(上記の企業の粗利益率はほぼすべて20%台)、規模の拡大なくしては生き残っていけないという危機意識が合従連衡を引き起こしているのである。従って、これらの業界の規模が小さめのグループの多くは危機的状況に置かれている。


製造小売業への進出(製造原価を下げる)

製造分野を取り込むことで粗利益率の劇的な改善を行う小売業であり、ユニクロ(ファーストリテイリング)やニトリなどがその代表例。経済のボーダレス化によって生まれた、中国や東南アジアの低コストな労働力やインフラを活用し、小売業でありながら、実質的な製造機能を持つことで収益構造は前述の大規模小売業とは一線を画す。ちなみに、上記2社はいずれも粗利益率が50%を超えている。もちろん、さらに製造コストを下げ、収益を拡大するために販売網の拡大も 同時平行して行う。


無店舗型小売業(販売管理費を下げる)

店舗を持たず、在庫を持たず、店員を持たないスタイルのユニークな 小売業が増えている。テレビ通販のジャパネットたかたやショップジャパン(オークローンマーケティング)などは、現代人のライフスタイルの変化(24時間化)や、テレビの多チャンネル化、インターネットの普及によって実質的な売り場を低コストで確保し小売を行っている。ジャパネットたかたを例に取れば、店舗はテレビ、在庫は番組ごと1商品のみだし、もしかすると注文時に現物がなくても良いから仕入れは受注後かもしれない(詳しく知らない)。さらに販売員は社長ほか数名である(もちろん、コールセンターなど広義の販売員は必要だが)。

また化粧品会社(例えば再春館製薬)、健康食品会社(例えばやずや)なども似たような構造を持つ小売業と言えるだろう。


環境が変化し、消費者の意識が変化する中で、経営環境の変化に合わせて、自らも必死に変化してきたさまざまなタイプの小売業を紹介した。当たり前だが、要は規模を拡大し売上を増やすか、粗利益率を上げる(原価を下げる)か、売り方を革新(販売管理費を下げる)する、もしくはこれらの複合型しか、小売業が成長する方法はない。

このうち、大規模化を追い求める企業は葬祭業の分野で現れるかもしれないが、設備投資型の今日の葬祭業で規模の拡大を追うことは、変化への対応力を弱めることになるから成功者は出ないだろう。製造原価の大幅な削減は、葬祭業、仏壇仏具店、墓石店とも不可能だ。また、売価を上げることで粗利益を増やすことも競争が激しい中ではこれまた難しい。可能性があるのは、販売方法の革新である。

店舗を持たず、在庫がない仏壇店が成り立つのかどうか、販売員のいない石材店が成り立つのかどうか、これはユニークなチャレンジである。

最後に、商品やサービスを全く変えてしまう手はある。業界内部からは生まれない発想だろうが…。


株式会社鎌倉新書

代表取締役社長 清水祐孝