会長コラム“展望”

情報の上流に立つ

2017/07/01

ビジネス

 「取材で全国飛び回っていて、たいへんですね」。10年ぐらい前までは、取引先からこんな声をよく掛けられた。当時のわたしは零細企業の社長であると同時に、社内で一番多忙なプレイヤーでもあったのだ。草野球で監督がピッチャーと4番打者を兼ねているようなものだ。さまざまな業務の先頭に立っていて、全国の企業経営者のもとへ伺って取材や営業活動などを日々行っていた。今回は、そんな当時の気づきからスタートしたい。


企業の経営者にアポイントを取ってお伺いすると、初回から「おお、よく来てくれた!」といった応対をされることはほとんどない。だいたいが「(忙しいのに)何の用だ?」とつっけんどんな反応をされる。営業マンなら良くわかるだろう。そんな雰囲気の中で「成功されている〇〇社長のお話を伺いたい」などと煽てながらいろいろと話を伺っていく。


最初のうちは教えてもらうばかり、情報は先方からわたしに100%一方通行で流れていく。しかし、何度かお会いするようになってくると教えてもらうばかりではなく、こちらからも少しづつ情報を提供できるようになってくる。相手の興味関心事もだんだん分かってくるし、何しろこちらは、毎日のように経営者に会って話を聞くのが仕事なわけだから、情報の蓄積スピードが段違いなのだ。そして、こんなことを続けていると、どこかのタイミングで先方から教えてもらう情報よりも、こちらが提供する情報のほうが質量とも多くなる瞬間がやってくる。ちょうど、流水を竹筒に流し込んでいると、溜まってきた重みで傾いた竹筒から水が流れ出し、今度は軽くなって竹筒が石に当たってカーンと音が出る(添水・そうず、と言うらしい)あのようなイメージだ。


すると、いつの間にか情報の提供側から受け取り側に回ったと無意識に感じ取った経営者は、その日から「何の用だ?」という代わりに「今度はいつ来るの?」と聞いてくる。そして、「食事をしよう」「一杯飲もう」といった提案をしてくれたり、お願いしてもいないのに「広告を出そうか」「本を買おうか」などと申し出てくれたりするケースもある。同じ業界内の経営者ならば情報交換の機会もたくさんあると思うのだが、意外にも重要なテーマについての情報流通は(どこかで競合みたいなところもあり)限定的なのだ。


この、「位置付けが変わる瞬間」とも言うべき事象に何度か遭遇していて、この変化について自分なりに考えてみた。結論はこうだ。経営者にとって情報はきわめて重要な経営資源であり、さらに言えば今日のすべてのお金の動き(経済活動)の起点は情報なのだ。わたしは期せずして情報の上流に立っていたということなのだ。ついでに言えばこのポジショニングを得ることができれば、ビジネスは一気にやり易くなる、ということでもある。以上が若いころの気づきだが、前置きが長くなってしまった、本題に移ろう。


今日の情報社会を正しく認識し、この情報の上流に立つ、ということを徹底的に行ってきた会社がGoogleでありAmazonである(Facebookも)。彼らはわたしのように全国を飛び回って経営者に会って・・、などといったベタな方法で情報収集はしない。テクノロジーを駆使して人々が求める情報を効率的に集め続けるのだ。そして、集めた情報をユーザーの視点から整理編集する(ここが重要!)。


ここに掛かるコストは、Googleの場合ビジネスサイド(B)から広告費で、Amazonは消費者サイド(C)から商品の販売で賄われ、事業を成立させている。Googleはメディア業(検索エンジン)で、Amazonは小売業だと考えている人が多いと思うが、わたしは双方ともまったく同じ情報提供サービスというカテゴリーに属し、最終的な課金の方法が違うだけだと思っている。例えばAmazonのサイトでは同じ一つの商品をAmazon以外にも複数の業者が販売している。自社販売に誘導せず、選択権を消費者に渡している。これは、小売業の発想ではできないこと、情報サービスの視点を持つが故の行動であろう。


最近、このAmazonの脅威に晒されているWalmart(ウォルマート)が、Jet.Com(ジェットドットコム)というEC小売の急成長企業を買収してAmazonに対抗しようとしているが、Jet.Comは巨大小売業の傘下にいたのでは勝ち目はないだろう。EC小売業はAmazonの課金の仕組みにすぎず、Jet.Comは情報提供サービスに挑むという視点がなくては、ユーザーの共感を得ることはできない。ユーザーへの整理編集された情報提供(必要に応じて複数の選択肢)→購買への誘導、という流れが必要なのだ。国内においても同様で、セブン&アイやイオンはリアルな小売業としてはチャンピオンであるが、ECを頑張ったところでAmazonや楽天には勝ち目がない。それは情報屋さんでない宿命だ。


番外だがAmazon対楽天はどうなるのだろうか? 一般的には直接小売り型なのかモール型なのか、あるいは物流の強み弱みといったポイントから両社は比較されているようだが、わたしの見る角度はちょっと違う。両者の差異は編集力で、Amazonに比して楽天はこれが弱い。ユーザーから見れば、情報はもちろん必要だが、それを適切に編集してくれているかも重要だ。楽天はAmazonほど編集整理がされておらず、その意味では情報サービス業という立ち位置の徹底度合いが違うともいえる。そこで楽天は、その弱点を補うためにエモーショナルなコピーライティング、そしてセールやポイント還元などを頻繁に行いユーザーに訴求する。その意味で発想が少し小売り寄りだ。どちらかと言えばAmazonの方が優位なようには思えるが、感情移入しやすい、セールが好き、あるいは(ドン・キ・ホーテのように)ごちゃごちゃしているほうが楽しい、というユーザーもいるのだろうから、圧倒的にどちらかが勝つというわけではなく、両者がこれからも市場を二分していくのだろう。


わたしたちも、今日のすべての経済活動の起点は情報だと信じて、現在の領域やさらに周辺の領域に関わる情報提供サービス業として、ユーザーの求める情報が何かを考えつつ整理編集して提供していきたいと考えている。課金の仕方には特にこだわることなく……。


株式会社鎌倉新書 代表取締役社長

清水  祐孝