会長コラム“展望”

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

2011/01/01

個人的価値観


「最近は俗名の位牌がめっきり増えました」とはある仏壇店の経営者。

俗名の位牌ということは、戒名がない可能性が高いから、葬儀も宗教者不在で行っているのだろう。そのような方の葬儀はきっと簡素なものだったに違いない。

お骨はどうなるのだろう?

代々の墓もないだろうし、戒名もいらないという人たちなのだから、きっと永代供養墓を求められているのだろう。

さて、このような供養のあり方が年々一般化しているのが都市部における状況であり、この流れは一時的な流行ではなく、長期にわたるメガトレンドなのである。そして、この流れは都市部だけのものではなく、時の経過を経て地方にも波及していくだろう。

そのような環境下で、葬儀や仏壇仏具、墓地墓石のビジネスがどのような展開を見せるだろうか、年頭に当たり少し考えてみたい。

葬儀業界

小さな葬儀が主流となっていく中で、葬儀社自身もこれに合わせた経営ができるかどうかが大きな課題となる。

古くからの葬儀社の多くは、比較的規模の大きな葬儀に慣れていて、近年市民権を得た感のある「家族葬」「直葬」は特別な形式だと思い込んでいるところがある。

しかし、これからは比較的大きな葬儀の方が特別なものになるわけだ。

まずは、経営者自身がその意識を変革することが大切だと感じている(昔の状況に戻れ、みたいなことを言う人が実に多いことか)。そ の上で、小さくなった葬儀からきっちりと収益を挙げる体制作りを行っていくこと。以前は丼勘定でも回っていたが、これからはそうはいかない、経営力の巧拙が問われているのだ。

過去において、大型葬を想定した大規模な葬祭会館を所有する企業などは、特に大変である。小回りの利く企業体に転換するのにはどうしたって時間がかかる。地方の葬儀社にはまだ時間が残されているのだから、この変化への取り組みを常に意識することが大切であろう。

最近では、「直葬専門」 をうたう葬儀社も増えてきた。葬儀業はワンルームマンションと電話一本でスタートできるビジネスである。このような低コストの新設企業と価格で太刀打ちで きる古くからの葬儀社はないわけだから、身軽な企業体質を築きながらも、単純な価格競争には陥らないようにしなくてはならない。そのような葬儀社は遺体処理の手伝いをしているのではない。葬儀という残された家族や関係者にとっての学びをサポートしているのである。「家族葬」「直葬」に対応しながらも、このようなコンセプトを今一度見つめ直したい。

仏壇仏具業界

「仏教」や「お寺」との関係が疎遠になる社会環境のもとで、仏壇の役割は変わってきた。実態は信仰の道具ではなくなっている中で、実態に合わせたメッセージや、接客が必要とされている。顧客をよくよく見つめ、その本当の ニーズはどこにあるのかをもっと考える必要があるように感じる。そもそも、仏壇という「箱」でなくてはならないのだろうか? 暴論かもしれないが、その果たしてきた役割を棚卸しして、現代人が仏壇にどのような役割を求めているのかを、考え直す時期だろう。

墓地墓石業界

永代供養墓の時代がいよいよ本格化した。地方ではなかなか気が付きにくいことだが、昨年一年間で「こんなお墓でいいわね」という消費者の声を何度聞いたことか。 消費者の意識は明らかに変わってきた。事業者にとっては、嬉しい話ではないが、これも社会環境が変化する中で生じた必然的なニーズである。背を向け続ける という選択肢もあるし、積極的に取り入れるという選択肢もある。雰囲気は数年前に「直葬」というキーワードがブレイクしたときと同じように感じている。都市部では何割かの消費者が、こちらの選択をすることになるだろう。

大雑把に見てみたが、年頭に当たり最後にメッセージを発信しておきたい。

「私たちは葬儀(仏壇仏具・墓地墓石)のビジネスを通して、顧客に○○を提供している」

この○○に当たる部分をよくよく考えたい、例えば「家族の幸福」とか。

これと突き詰めた時、既存のビジネスを転換する知恵と勇気がわいてくる、そのように感じている。


株式会社鎌倉新書

代表取締役社長 清水祐孝