会長コラム“展望”

終活インフラというミッションについて

2023/06/01

社会

終活インフラというミッションについて

インフラとはインフラストラクチャーの略で、ウィキペディアによれば「下の (infra) 構造 (structure)」を指し、「下支えするもの」「下部構造」というのが語源らしい。そこからわたしたちは、社会や経済あるいは生活が拠って立つ基盤、といった意味合いで一般的に使っている。当社も超高齢社会の日本における「終活インフラ」の構築を企業の使命と考え、事業を行っているのだが、そこに向かう理由と背景について触れてみたい。


以前にも書いた通り、わたしは縁があって児童養護施設と乳児院を運営する社会福祉法人の役員をやっている。そこは、さまざまな理由から親と一緒に生活することができない乳児や青少年(以下子どもたち)が共同で暮らす施設である。さて、彼らは経済的に困窮しているかと言えばそんなことはない。むしろ家族と暮らしながら経済的な困難に直面している人のほうが世の中には多いだろう。施設の子どもたちは、一般的な家庭との差を感じさせない程度の生活はできるようになっていて、ある程度の年齢になればもちろんスマホだって所持している。かなり前の話だが、施設内の部屋に案内されたことがあった。部屋に置かれていたモノは結構充実していたし、机の上にはたくさんのレンタルビデオを借りた領収書が置かれていたりした。その光景は、当時のわたしが勝手に描いていたイメージから乖離していたので、拍子抜けした記憶がある。


このように施設で暮らす子どもたちは、経済的な基盤(インフラ)が確保されていないわけではない。そうではなく、問題は親から受ける愛情とか、守られているという安心感といったような、そいわば精神的な基盤(インフラ)が十分に提供されていないことだと、その時初めて思い至った。前者は国や地方自治体、あるいは寄付によって賄うことができる。いっぽう後者については、いくら職員の人たちが頑張ったところで補いきれない限界があり、ここが難しいのだ。トラブルを起こす青少年が存在したり、大学進学率が低かったりといった問題も、(多くの人がそういう印象を持っているのかもしれないが)遺伝が理由ではない。多くは人の成長に必要な精神的な基盤(インフラ)が提供されなかったことに起因するのだ。(これらは全てについて当てはまると言っているわけではない。あくまで一般論として聞いてほしい)。余談だが「お父さん、お母さん、育ててくれてありがとう」なんてシーンが人生の中であったりするが、これはその実、精神的な基盤(インフラ)を提供してくれて感謝ってこと。親が提供してくれた土地の上に、自らの人生という建物を建てているわけで、地盤が緩んでいればしっかりした建物は建てられない。だから親に対して感謝、崇敬の念を抱くことは、多くの人が逆の立場になることからも、とても重要なことなのだ。

ということで、ここでは人の成長にとってインフラが大切ってことを指摘してみた。


会社も同じことが言える。わたしたちの会社も順調に成長してきたけれども、自分たちの努力だけでそうなったわけではない。この国には経済、社会基盤(インフラ)があって、それを享受しながら成長しているのである。偉そうに自分たちの所業だと思ってはいけないのだ。例えば紛争が絶えないスーダン、ウクライナ、ミャンマーなどなど世界にはこうした基盤(インフラ)が提供されていない国や地域はたくさんある。会社の成長も、豊かな社会基盤(インフラ)があってこそ実現できるものなのである。


親が子に対して成長に必要な基盤(インフラ)を提供してくれるのと同様に、会社は国の豊かな経済・社会基盤(インフラ)を背景に成長することができるわけだが、次に考えるべきことは、これらを築いてくれたのは誰ってことだ。それは、一言でまとめてしまえば、親や祖父の世代を含めたわたしたち先輩方と言うことができるだろう。その過程では多くの犠牲もあったはずで、そうして築かれた基盤(インフラ)を享受して会社の成長が成り立っているのだ。そこまで考えれば、わたしたちがやるべき役割が見えてくる。次の世代のための基盤(インフラ)づくりに貢献することだ。


わたしたちの会社がミッションとして「終活インフラ」を標榜するのは、こうした考えが背景がある。先輩たちの築いてくれた基盤(インフラ)おかげで成長できているのだから、後輩たちのために基盤(インフラ)を築くことは義務ですらある。こうした考えのもとで仕事ができることはとても幸せなことで、親や社会に感謝するとともに、従業員や顧客、そして株主などさまざまなステークホルダーと力を合わせて、日本の社会に絶対必要な「終活インフラ」を実現したいと考えている。ますます高齢社会は進展するしニーズは途方もなく大きい。そう考えると現在地点は、山の一合目あたり、頂上が近づくと次の山登ろうってことになるので、わたしの役目はそのあたりまでかな。そこまでは必ず実現します。


株式会社鎌倉新書
代表取締役会長CEO 清水祐孝