会長コラム“展望”

適切なリーダーをいただくことの難しさ

2022/05/01

社会

適切なリーダーをいただくことの難しさ

私たちは人種や祖国(生まれた国)を選ぶことはできない。母親のお腹の中から「黒い目、黒い髪の日本人として生んでいただきますようお願いします」なんてリクエストすることはできないのだ。そして人は生きている間に国籍を変えるようなことはほぼしない。つまり、世界中の人々が目の当たりにした光景は、わたしたちは自らの意思の外で大きな不運に遭遇することがある、ということだ。当たり前なのだけど、そんなこと意識することはなかった。大国の軍事侵攻なんてグローバル化、知識社会化が進む現代で起こるなんて考えてもみなかったのだから。


個人は社会においてさまざまな団体に所属する。それは会社のような組織であったり、様々なコミュニティ、地域、国家等々であったりする。たいていの場合、それらの団体には意思決定をつかさどるリーダーが存在していて、ひとたび彼がその舵取りを間違ってしまえば、迷惑は所属する人たち全てに及ぶことになる。国家というレベルで、例えばリーダーが何らかの理由で他国へ侵略するという意思決定をするとか、国家財政を野放図に膨張させ続けるという行動を取ったとする。真っ当な反対意見はかき消され、そんな人までもリーダーの意思決定に対する責任を取らされる羽目になる。だから正しいリーダー選びは団体におけるもっとも重要な活動なのだ。


問題が何であれ、その解決の手段として他国に軍事侵略することが不適切なことは言うまでもない。軍事行動で街が破壊されたり、人々が殺められたりといった報道がなされるたびに、世界中から一斉に非難の声が上がるけど、その手前の段階でリーダーの取った行動自体が、自国を含めた人々の希望を捻じ曲げる事であり、それは大量虐殺に等しい。そもそも、ソフトパワーの現代に領土を奪ったところで意味ないと思うのだけど・・。知識社会の今日において、いくら領土を拡大しても豊かさが得られるわけではなく、逆にそんな国家に愛想をつかして優秀な人間が出て行ってしまったらむしろマイナスの方が大きい。今や土地に人が縛り付けられているわけでもなく、資源や製造物は豊かな経済力を持って他所から買えばいい。情報とテクノロジーの発達した現代においては多くの優秀な人材を生み出す、又は輸入し、彼らを自由と自己責任の原則の下で統治することが大切なのに、軍事侵略で国家を幸福に導こうなんて時代錯誤もいいところ。それでは人々を洗脳することによって統治をせざるを得なくなってしまうから、結局は国家は衰退に向かってしまう。近い将来の紛争の推移は全く想像もできないが、未来の歴史の教科書に「暴君の誤った意思決定により豊かな大国が衰退してしまった」って記載されることは十分に予測可能だ。


さて、今回わたしたちが思い知らされたのは、適切なリーダーを戴くことがどうしようもないほど難しいという悲しい現実である。すべてのリーダーは当初は適切な志や野心を持ってその座に就くのだろう。就任に際してリーダーには権力が付与されるのだが、この権力というのがとても厄介だ。自らの意思に従って振舞うことが可能なリーダーに対して、その下部に存在する人たちは逆らうことはできない。そこには絶対的な服従や忠誠が必要不可欠となる。そして、服従や忠誠は忖度を生み出す。このようにしてリーダーは時間の経過とともに雲の上の存在になり絶対権力者に成り上がる。リーダーに不快な情報は入ってこなくなるのと同時並行で、彼らは権力の魔力に憑りつかれることになる。


そんな権力者に本来であれば必要となるのが、湧き上がる私利私欲を抑える能力だ。能力がないのならば仕組みやルールを導入しそれを防がなければならない。なぜなら、権力者はその気になれば公私混同が可能な立場だからだ。ところが、そもそも権力者がなぜそこまで上り詰めたかを考えれば分かることだが、そこには「人並み外れた欲望」の存在がある。なので「リーダーにすべてを委ねてはいけないよねえ」ってことになり、権力者が暴走しないルールが過去の反省をもとに制定される。国という単位で考えると、欧米の先進国や日本ではそのルールが一定程度機能している。けれども、それ以外の国々ではそれが緩かったりする。そんな中で権力者は考える。「どのようにすれば権力の座に長く留まることができるのだろうか」と。実際にさまざまな国で、権力者の意志の下で国家元首の任期やルールが変更されてきた。ロシア、中国、ベラルーシなんかそうで、なるほどねと思ってもらえるだろう。


「絶対的権力は絶対に腐敗する」と言ったのは英国の歴史家らしいが、まったくその通り、これが私たち人間の悲しい現実なのだ。いっぽうで国家や会社には思い切って変革しなくてはならないタイミングもある。そんな時にリーダーの権限や任期を絞り込んでしまえば、何も変えられないという問題が生じてしまうから難しい(これが日本の大問題)。


正しくリーダーが選ばれ、リーダーシップを発揮する。そのリーダーが品性を持ち続け、適切なタイミングにその地位から離れる。それは国家であっても会社組織であっても同じこと。その実現に向かって知恵を絞り続けなくてはならないということ、これが大切な教訓だ。


株式会社鎌倉新書

代表取締役会長CEO 清水祐孝