会長コラム“展望”

門外漢の考える人事評価のありかた

2017/12/01

組織

今月は会社にとって重要かつ難しい課題~社員に対する人事評価、というまじめなテーマについて考えてみたい。まずは人事評価をしやすい職種とそうではない職種とがあるよねって話から。


例えば住宅販売会社の営業マンとか小売店の店長などのような、収益部門で働きぶりがストレートに数字になって表れてくるような職種は、人事評価もそう難しくはないはずだ(もちろん細かな問題はいろいろあるのかも知れない)。


一方、同じ収益部門であっても、ひとり一人の仕事の成果を計測することが困難な職種もある。

例えばITサービスという業態であるわたしたちの会社は、そのような部類に入るのだと思う。


ある事業部では、WEBエンジニア、WEBデザイナー、WEBディレクター、WEB広告担当者、コールセンターのオペレーター、コールセンター責任者、営業担当者、営業マネージャー、部長、管掌役員、といったメンバーがそれぞれ1名~複数名所属している。そして、それらのメンバーが密接に連携しながら部門の収益を稼いでいる。


彼らの生みだした成果はひとりの力だけでは生み出すことは不可能で、成果は分業によって成り立っている。分業の中のどの役割が重要か、などという考えを持つことはできるのかも知れないが、そんなことを議論することに意味はない。なぜなら、どの部分が欠けてもパズルは完成品にならないからだ。


分業の次に重要なのがチームワークである。工場のラインでのものづくりのように、製品が完成に至る工程を分業体制で粛々とこなすといった感じではない。仕事を受け持つそれぞれのメンバーがチーム内で意見を出し合い、合意や納得を形成し、役割分担と試行錯誤を繰り返しながら製品(サービス)の質を高めていく。


そのような活動の集積が最終的には成果となって現れてくる。そして、このサイクルがうまく回りだすと大きな相乗効果が生まれやすい、という点はわたしたちの会社のような、テクノロジーを活用したサービス事業には共通して言えることでもある。


もちろん、ものづくりビジネスにチームワークが必要ないということではないが、IT系のサービスはその相乗効果の大きさという点でチームワークの重要性が極めて高いのだ。
このように、ひとことで言ってしまえば、ITサービスは分業とチームワークによって相乗効果を生み出す事業だといえる。


ここで、人事評価に話を戻してみよう。このような組織の中で、メンバーの人事評価ってどうあるべきだろう?それぞれのメンバーが取り組んでいる仕事はさまざまで、同じ内容の仕事を何人ものメンバーがやっているわけではない。だから、他人との比較で人を評価することは難しい。


また前述のように、成果はひとりで生みだされたわけではなく、チームワークによって生みだされたものであるから、ひとりのメンバーの関与の度合いを数値化することも難しい。このように成果をベースとしてストレートに個人の評価をすることも実際には困難を伴うのだ。


となると人の評価は、ひとり一人の仕事ぶりから行うという当たり前の手法を取るより仕方がなくなってしまう。ところがこのような中で行われる、個人への評価に対しては、他のメンバーとの比較、数字による比較がしにくいので、本人による自己評価と他者評価が大きく異なるといった課題が付いて回る。


そこで考えられたのが、直属の上司だけではなく多面的に評価をする仕組みで、よく360度評価などと言われるものもそのひとつであろう。この多面的な評価制度は、「みんなの意見は案外正しい」と言われる通り、評価の精度を高めることには役立つ。でも運用が面倒であることや、なにより本人の納得感を得られるかという点では、上司による評価とそれほど変わらないものと思われる。「あまり見てもらっていないと感じる人に評価を受けても」ってことだろう。


このように人事評価というものは、極めて重要かつ難しい経営課題である。でも、これを避けて会社を大きく発展させようと考えるのは、知識社会においては単なる「ないものねだり」なのである。


そんな中で最近大きな気づきがあった。それは、チーム内での活発なコミュニケーションこそが、人事評価の妥当性と理解度を高める、ということである。別の観点から言い換えれば、ひとり一人の仕事の見える化、共有化を推進することで評価の精度と納得感を高められるのではないかということである。


この気づきは、社内のあるチームがやっていたことから得られたものだ。そのチームでは、社内のコミュニケーションツールとしてチャットを活用していて、メンバー間で取り交わされているコミュニケーションが質量ともにすごかった。業務に必要な伝達だけではなく、質問、指示、意見、感想、激励、感謝、ねぎらい、等々のコミュニケーションがチャット内で日々繰り広げられており、これらはすべてのメンバーが共有している。


これを見て瞬間的に「なるほど!」と思った。つまり、同じチームの中でこれだけ活発なコミュニケーションが全員に共有されているということは、メンバーの仕事ぶりもまた共有されているということになる。このような土壌のもとで行われる多面的な人事評価は、精度の高さという点でも、また本人の納得度という点からも大きく前進するはずだと思った次第。


人事評価はどの会社でも永遠の未完成品なのだろうが、だからと言って進化させる努力を怠ってはいけない。この気づきをベースとしてもっと深く考えていきたい。


株式会社 鎌倉新書
代表取締役会長 清水祐孝