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会長コラム“展望”

ビジネス 2018.09.01

環境のおかげ

 「闘う商人 中内功」(小榑雅章著)を読んだ。今ごろになって中内さんについての本が出版されるのは不思議な感じがした。というのも、亡くなってから既に13年も経っているし、晩年にわが国のバブル経済の崩壊と相まってしまったこともあり、経営者として最後まで成功を収めた人ではなかったからだ。


 確かに戦後の日本を象徴する経営者ではあることは万人の認めるところだろうが、世間的には必ずしも賞賛の対象となっているわけではないように思う。とはいえ、わたしが若いころは経済雑誌や新聞に頻繁に登場していた人であり、いろんなことを学ばせていただいた恩人の一人だと思っていたので、書店で見つけて、即ページを開き、一気に読み終えてしまった。


 流通業での成功を収めた経営者としては、鈴木敏文さんが代表選手になるだろう。コンビニエンスストアを流通業のメーンストリームに押し上げ、セブン&アイを国内最大の流通グループにのし上げた実績は他の追随を許さない。(これについては本稿で以前に書いている「鈴木敏文氏の功績」  )


 だけど、学びは成功だけではなく失敗からも得られるという点では中内さんにはかなわない。そして、私は中内さんに対しては特別のシンパシーを持っている。その理由は、何と言っても「戦争」で兵士として極限状態を経験し、その強烈な原体験を活力の源として、戦後のわが国の豊かな消費社会の実現や高度成長に貢献してきたことにある。


私はフィリピンの北部の山中で、大日本帝国陸軍・比島派遣軍の軍曹として敗戦の日を迎えた。自分の目の前で多くの戦友が死ぬのを見た。「突撃」の一言で勇敢な人ほど死んでいった。自分は卑怯未練で生き残った。そのことへの後ろめたさを心に抱いて、今も生きている。(中略)この体験を基に、私は日々の生活必需品が安心して買える社会をつくることを戦死した人々に誓った。それを途中で投げ出すわけにはいかない。(日本経済新聞 私の履歴書)


 今では見られなくなってしまったが、昭和の時代には戦争を経験した経営者がたくさんいたのだろう。中内さん以外にも、伊藤忠の瀬島龍三さん、ワコールの塚本幸一さんなどは著書を通して当時の極限状況を知ることができる。そのような記述に振れてみると、こんな考えも浮かんでくる。夥しい数の戦死者が平和な国を目指す原動力になり、そこで生き残った人たちの強い思いが、豊かな国を形成してきた、のかなと。


 わたしたちは、そのような先輩たちの築いてきたインフラに乗って今を生きている。わたしが、ITを使ったサービス会社の経営者をのほほんとしていられるのも、豊かな社会やITによる技術革新という現代の外部環境のおかげ。自らの努力や働きによって満足のいく人生が成立しているというより、環境のほうがよっぽど自らの人生に大きく作用していて、そのお陰で生きているという理解をした方が良いのではと思ったりする。


 中内さんは、悲惨な戦争体験、そして高度経済成長、さらにはバブル経済の崩壊という環境に翻弄されながら生きてきた。ネット時代の経営者は、豊かな社会とテクノロジーの発展という環境を享受しながら生きている。世間は成功した経営者の思考や行動に焦点を当てるけれど、土台としての環境が与える影響無しには結局のところ何も成り立たない。


 もし、わたしたちが「良き環境のお陰で良き人生があるのだ」と思うのであれば、次の人たちのためにも、その環境を良くすることに意識を傾け、それぞれの務めを果たす責務を同時に負っていると考えるべきだろう~なんて偉そうなことを書いておけば、多少は自分を律することができるかもしれない。



株式会社鎌倉新書

代表取締役会長 清水祐孝